20:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 20:46:35.36 ID:+eTeNEs7O
始まったらしい。時間はちょうど七時半だった。
一瞬のフラッシュと、轟きの連続、感嘆の声。
これをもう二度と感じられなくなるなら。
そう考えても、ならばと観る気はさほど起きなかった。
そもそも、観たいと思ってもそれは難しいのだが。作業中の現場は、花火目的ならばなんとも言い難いほど最悪だった。
すぐそばの宙に立体を描く大型歩道橋が、打ち上げられて開く花火の下部を横切っている。その上、ひょこっと飛び出たマンションの頭が丸い花の大輪を大きく切り取っていた。
ため息をつき、ふと彼女の方を見た。
ろくろく見えやしないのに、それでも彼女はそれっぽっちしか見えない火の軌跡を見つめていた。どこか名残惜しそうな横顔が断続的に照らされている。
頭をかいた。歳をとって、そういう顔にえらく弱くなってしまった。その上今回彼女をここに縛っているのは大人の都合だ。
少しぐらいなら休憩がてら見てきていい、と言いかけたが、朝からの仕事で汗だく土まみれの今、人混みに出るのはどうかと誰でも思う。
どうしたものか、と頭をひねったが、上手い案は浮かばない。来年もあることを祈って、今年は我慢してもらうしかないだろうか。
少しの間持ち場を彼女に任せ、プレハブ小屋に戻った。
「お。休憩スか?」
中には定時帰宅組の滅亡を願っていた彼がいた。
「あっ、サボりじゃないぞ。ちょっと買い出し任されただけで」
言い訳しなくても別に疑っていない。
ちょうどよかった、とカバンから取り出した自分の財布を押し付けた。
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