9:名無しNIPPER[sage saga]
2017/07/15(土) 20:13:28.29 ID:+jykf0ly0
書類作業や事務処理に移る前に、軽くつまめるものでも買いに行こうと近場のコンビニへ向かった。
向かう途中、さっきまで見ていた小さな背中を見つけた。両手を目の前に広げ、見つめながらゆっくりと歩を進めている。
小走りに駆け寄り、肩を叩いた。
「うわっ。……あ、親方? ビビったー。
……あり? まだ仕事あるんじゃなかったん?」
帰るわけじゃあない。帰りたいのはやまやまだが。
なにを見ていたのか、と尋ねると、彼女はその両手をこちらの顔の前に広げた。
「見て見てコレ! 激ヤバちょ!」
自分の無骨なものとはまるで違う、綺麗で細い指だった。しかしそんなことに感嘆する間も無く、その付け根で存在感を放つ黒ずんだ赤色に気づいた。
血マメができていた。なんとも痛々しい。
「こんなん初めてなったし。もービビりんちょっすわー。けっこーヒリヒリすんだねぇ」
必死に仕事をしていた証左だ。手を抜いていればそんな風にはならない。
褒めると、彼女は照れたように頭をかいた。
辿り着いたコンビニで、買う予定だったものに加えて余分なものをもカゴに入れた。加糖の缶コーヒーと絆創膏。
外に出てからその余計な二つを彼女に手渡した。
「えっ、くれんの? マジ? ありがとー親方!」
明日からも期待していいのか、と半分笑いながら尋ねた。つられたのか彼女も笑った。
「当たり前っしょ!」
その言葉をまるまるそのまま信じられるとは言えない。だけど、期待はしてよさそうだった。力強い言葉尻と笑顔にそう思わされた。
彼女のラフな口調や無邪気なところなんかは、おおむね写真から得られるイメージ通りだった。
しかし、見た目から生まれるイメージに反して、彼女は真面目で真っ直ぐで、ともすれば愚直な子だったらしい。
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