【モバマス】橘ありす「待てますか」
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6: ◆rTvFomYy1A[sage]
2017/08/06(日) 21:24:31.76 ID:n4iR/E4U0
そのまま近所の公園に飛鳥さんに連れ出されていた。周囲は暗く、人通りもなく静かだった。
「彼からは君が大人になるまで自分の代わりに助けてほしいと言われてたんだ」
待っている時間にあの人のことをいろいろと教えてもらっていた。
曰く、事務所を辞めざるを得なくなった後、唯一頼れそうだったのがちひろさんと飛鳥だけだったこと。
今の彼は大っぴらに動くことができなかったが、最近ようやくチャンスができたということ。
「さて……どうやら来たようだ。僕とちひろさんは離れることにしよう」
外なのにいつもと同じ緑色の事務服を着たちひろさんに連れてこられる形で後ろから現れたのは
5年前とあまり変わらない顔つき、見慣れたスーツ姿のあの人だった。

「やあ……久しぶり……」
どこか歯切れの悪い口ぶりで、5年間ずっと聞きたかった声が耳に入ってくる。
いろいろ言いたいことはあった。けどもそれらは口から出てこない。
「……座ろうか」
近くにあるベンチに2人で腰かける。少しの間沈黙が続いたかと思うと
「「えっと」」
2人で同時に話そうとしてはお互い黙るのが何度か繰り返される。
「……先に話してください。私はもう大人ですからいつまでも怒ってたりはしません」
「あはは……そうだね、橘さんももうすっかり立派になったよ。だからどうして君たちの前から姿を消したのか話そうと思う。
 簡単に言ってしまえばこの5年間、僕は自分の実の父親に捕まっていた。前に話をしたかもしれないが、僕は自分の父親を知らなかった。
 シングルマザーの息子として生きてきたし、会ってみたいと思ってたこともあったけど母親は決して話してくれなかったからね。
 ところが5年前、いきなり父親の関係者だという人が来て、父親が僕を探しているという話をしてきたんだ。
 だけどもう今更って感じもあったからその話は断った。それがよくなかったのかもしれない。
 僕の父親は大企業の会長だったらしい、母親は愛妾だったのか、僕を妊娠した後一人で姿を眩ませたらしい。
 そしてようやく僕を見つけ出したらしい。ちょうどありすや飛鳥のプロデューサーとして有名になり始めたからだろう。
 僕を見つけ出した父はなんとしても僕を後継者として探し出したかったらしい。どうやら他に子供はいなかったみたいだ。
 大企業って怖いね。最終的に脅されたんだ。事務所に圧力を掛けようとか、僕の担当アイドルを潰そうとかね」
「それって……」
「ちひろさんや社長はそんな脅しは気にするなって言ってくれた。だけど君を潰されるのは僕には無理だった。
 そして僕は5年前、突然事務所を辞めて、今まで後継者として教育されていたんだ。
 それでも隙を見て、ちひろさんと飛鳥に橘さんをお願いしたり、話を聞くことはなんとかできた。大っぴらには無理だったけどね。
 実はね……僕はもう諦めようとしたんだけど飛鳥とちひろさんが怒ったんだ。
『ありす(ちゃん)は頑張って立ち直ったのにプロデューサーは諦めるんですか!』ってね。
 だから僕も諦めずに耐え続けた。そしてようやく機会が来たんだ」
正直言って小説のような話だった。でもプロデューサーは真剣な表情だし、冗談ではないのだろう。
「僕の父親は今夜にでも亡くなる。亡くなった後は今のところ僕が社長になる方向で遺言を残しているだろう。だから……ありす、君に確かめたいことがあるんだ」
……今日出会って初めてありすと呼ばれた。
「君をトップアイドルにするという約束は守れなかった」
2人でトップアイドルを目指すという約束、それは叶わなかった。
「だけど8年前、君に待てますかと言われた時、その時にした約束はまだ間に合う」

『……君はまだ子供だ。一生懸命大人になりたがってるのはわかるけど僕ら大人からしたらまだまだ子供なんだ。
 だけど子供の時間というのは短いし、その間に得たことは凄く貴重な経験になる。そして子供の時に君の人生を決めるようなことはしたくない。
 だからありす、君の質問に約束することはできない。その代わり、君が大人になった時に、君がまだ僕のことを好きでいてくれるなら
 ……また、同じ質問をしてほしい。それまでは今の子供を一生懸命楽しんでほしい』

「ありす、待てるかな……僕は今からでも君と2人でアイドルの道を歩いていきたいと思っている」
「……ずるいですね、プロデューサーさんは。私は4年どころか8年間も待ち続けたのに」
「……大人はずるい生き物だからね」
「待ちます。私はあなたが一緒だったからアイドルになれたんですよ。だから待ってます」
「……ありがとう」


公園での一晩が過ぎ、新しい約束を胸に秘めながら今日も私はアイドルとして一日一日を過ごす。
ユニットの仲間たちや、周りのスタッフさんやファンのために。今日も頑張って行こうと思う。
そしていつかプロデューサーさんとまた2人と歩んでいくのを楽しみにしながら私は歌うんだ。
テレビではとある大企業の社長が亡くなって、その後継者が会社のNo2だった人に決まったことを放送していた。

終わり


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