女「犠牲の都市で人が死ぬ」 男「……仕方のないこと、なんだと思う」
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名無しNIPPER
[sage]
2017/08/13(日) 22:37:42.61 ID:/6Xwlc9Z0
暗い照明が地を照らす。
この地下都市では、夜を表現するために暗めの明かりが用いられる。朝はもっと明るい光だ。
大勢の人々がたむろしている。息苦しい、むせかえるほどの人ごみ。
流されていく。行き場のないまま。なにもみえないまま。
思えば、そんな風に生きていくのが、一番嫌だった。生きていく目標が欲しかった。
何のために生きる?なんのために死ぬ?
世情を見て、その答えを出した。
世の中を、変えてやるんだ。生きた証をどこかに刻もう。そうだ、できれば人のためになることをしよう。
所詮、子供の考えることだった。だが、その思いはどこまでも純真で、それだけに僕の基盤となった。
『裕樹クンは立派だねー』
……思えば、他にも要因があった気もする。
『私、雪っていうんだ。ユウキ、から一文字とればユキ。これって運命じゃない?』
人に認められるということ。
『そっか。じゃあ私が応援してあげるねー』
ほんの少しの勇気をもらうということ。
『君ならできる!』
……。
だが、だからと言ってなんだというのだ?現実には刃向かえない。
小さいころは何でもできると思っていた。でも今はそんなことはないと、十分わかっている。
大人になるということ、何かをあきらめるということ。それら二つはよく似ている。もう十七という年
は、大人にならなければならない年だ。
突然何かにぶつかる。違和感を覚える。前に何かがある気配はなかった。
「おっとすまないね」
その人物が口を開く。
どこまでも異様な雰囲気を放つ人物だった。確かにそこにいるはずなのに確信が持てない。しかし、強い存在感を感じる。矛盾の塊。
男は笑っている。
「認識できるみたいだね」
注意してみれば案外、その声は若い。
「……だれ」
「占い師だよ。水晶玉は持っていないけど」
「はあ」
「少年よ。君は悩みがあるようだね」
フードで隠れて見えない表情。余裕と澄み切った声の口調。
「ありませんよ」
ぶっきらぼうにそう言う。
僕には余裕がない。なにもできことに追い詰められていく焦燥感。
答えがひとつしかないことに苦しみ、それが正しいことを認めてしまう。だから、なにもできない。
「今日もどこかで人が嘆き、悲しんでいる。犠牲の都市ではひとりが殺される。今日もどこかで、心の中で誰かが泣いている」
占い師は歌うように言った。
そんな鼻にかけた台詞に、周囲の人々は注目することがない。
「……それで?」
彼は笑う。
「それで?」と僕の言葉を繰り返す。
ひたすら不気味な存在感。
「痛みを知っているんだ。大切なひとが死んでしまう痛みを。僕は些細な手助けをしたくて、君に話しかけている」
なんなのだ、と思う。
存在は酷く歪だった。気のせいではない。周囲の人々から、僕たちが認識できていない。
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