5: ◆0PxB4V7kSI[sage saga]
2017/09/08(金) 00:07:29.67 ID:xMQ2bOga0
 「はぁ……はぁ……っ」 
  
 少女は息を切らして濡れた枕から頭を持ち上げる。目尻には今も滴が流れていた。 
 最悪の目覚めだった。出来れば二度寝をして綺麗さっぱり忘れてしまいたいほどに。 
 時計の針は5時過ぎを指していて、セットしてあるアラームが鳴るよりも随分と早い時間だ。 
 というより、彼女の予定的には急ぐ必要などなかった。 
 今日、9月6日。少女───佐久間まゆは一日中フリーであり、 
 これから身支度して事務所に向かうのは彼女の自由意思によるものなのだから。 
  
 「プロデューサー……さん…………」 
  
 一般的には夢の中で死ぬと、その人は長生きすると言われているが。 
 ────あまりにも、あんまりなその"夢の結末"が脳に響いて交感神経を狂わしている。 
 目が覚めて真っ先に手に取ったのは洗面器ではなく、ベッドのすぐ側に置いてあるリボンだった。 
  
 「…………」 
  
 プレゼントを装飾するためではなく、自らの身を飾るための真っ赤なリボン。 
 永遠にその先と先がきつく結ばれて、ほどけないようにという祈りが込められた一つの証。 
 丁寧に置かれていたそれを無造作に掴みとり、自らの胸に抱き寄せた。 
 そこに実体はなくとも、確かに"繋がっている"感触が不安を和らげてくれる。 
  
 今、既にプロデューサーは起きている時間だとまゆは知っている。 
 彼が普段スマホを胸ポケットに入れており、例えマナーモードであろうと 
 着信には絶対に気付くということも知っている。 
 電話をかけたら、無事を確認できるし朝一から彼の声だって聞けるかもしれない。 
  
 思い立ったら、行動していただろう。─────以前の少女ならば。 
  
 「ううん……大丈夫。まゆとプロデューサーさんは……絶対に離れたりしないから」 
  
 暫く待つと、平静を取り戻した心が頭を落ち着けてくれた。 
 先程まで夢と現実の境界線が曖昧だった認識が、はっきりとしていく。 
 そう。さっきまでの光景は全てフィクションだったのだ。 
 現実じゃないのだ。そう思うと、次第に混乱も混濁も治っていった。 
 不安から指に結ぼうと手に取った赤いリボンを元の場所に起き直し、 
 更に頭を冷やす意味合いも含め顔を洗うために、まゆは洗面台へと向かった。 
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