梨子「──"私の音"と誕生日。」
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10: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2017/09/19(火) 00:05:21.55 ID:lKcuUgd9o




──夏休みが明けた。

二学期は最初から最悪な気分だった。

どうにか10日間くらいは頑張ったつもりだったけど


梨子「……音楽」


今日から二学期最初の音楽の授業がある。

正直、かなり行きたくない。

でも、行かないわけにもいかず、一人音楽室へと向かう。

辿り着いた音楽室の戸に手を掛けて、ドアの覗き窓からピアノが目に入った瞬間。

──『私の音』は見つかったの?──

そうピアノから問い掛けられたような気がした。

その瞬間、あのコンクールの光景がフラッシュバックした。

ざわめく会場の中で何も弾くことなく頭を下げたときに、見つめた床の色が。

私の音を聴きに来てくれた人たちの前で、私の音を何一つ奏でることが出来ずに逃げ帰ってきた、あの日のことが──


梨子「……っ!!」


急に吐き気がして、口元押さえて蹲る。


「桜内さん?」


後ろからクラスメイトの声が聞こえる。


「桜内さん!? どうしたの!? 気分悪いの?」


ああ、今きっと私真っ青な顔してるんだろうなぁ

しゃがみこんで私の顔を覗き込むクラスメイトの顔をぼんやりと捉えて、そんなことを思う。


「保健室いこ! 付き添うから!」


彼女に身体を支えられて、よろよろと保健室に向かう。

──ふと、この子が夏休みのあの日すれ違った子だと気付く。

……そういえば、名前まだ知らないや。





    *    *    *



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