梨子「──"私の音"と誕生日。」
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9: ◆tdNJrUZxQg[saga]
2017/09/19(火) 00:04:54.21 ID:lKcuUgd9o




私の音、私の演奏。

私の音……私の音?

私は今、私の音を奏でられるの?

しっくりきてないって言いながら、時間がないからって妥協した、あの音が私の音なの?

それが聴いてくれる誰かの……お母さんの聴きたい『私の音』なの?

私の音って何? 私の感じたもの? 私の奏でた音色? 私が考えた曲?

私の音……私の音……私の音は……どこにあるの……?

そんなことが頭の中をぐるぐると回り続ける。

でも、時間は待ってくれない、名前を呼ばれステージ上のピアノの前に立つ。

椅子に座る。

私の音……わからない、わからないけど、弾くしかない。

私の音"じゃない"音を弾くしか


梨子「……っ」


ッハとした。……私は今、私の音を弾けない。

『私の音じゃない音』を弾こうとしていた。

動きの止まった私に会場が僅かにざわついたような気がした。

早く弾かなきゃ……弾かなきゃ……!!

──でも、その手はもう動いてくれなかった。

今の私じゃ……ここに来ている『私の音』を聴きに来てくれている人の誰にも、私の音なんか届けられない、私自身にも……。


梨子「……」


私はピアノを弾かずに、鍵盤の蓋を……

……閉じた。





    *    *    *




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