54: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:53:23.82 ID:r5zFZECu0
空いていた会議スペースをおさえて、そこに彼女を通した。
彼女からチェスターコートを預かる。彼女は品の良い薄桃色のブラウスを身に着けていた。
雪のように白い肌によく映えている。
55: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:54:53.10 ID:r5zFZECu0
「一つだけ、確認させてください」
「私がアイドルになったとして、誰かを幸せにすることは本当にできるのでしょうか?」
56: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:55:45.39 ID:r5zFZECu0
「僕は、あなたが輝くためだったら、なんだって協力します」
当時は、彼女のためにどうしてこんなにも行動できるのかが、我ながらうまく説明できなかった。
でも少し考えてみれば、それは当然のことだと気付けた。
57: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:56:26.00 ID:r5zFZECu0
奮発して購入したワインは酸味と甘みのバランスが取れていて、とても飲みやすかった。
加え入れたジャムの果実感も味を濁すことなく、むしろ鼻に抜ける香りが良かった。
それを少しずつ飲みながら、ぼんやりと昔のことを思い出していた。
58: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:57:11.28 ID:r5zFZECu0
「無事、経営を立て直すことが叶い、平穏に年を越えることができるようになった、と」
えへへ、と彼女が笑う。
59: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:59:55.82 ID:r5zFZECu0
「P様がいなければ、今頃教会はどうなっていたともわかりません」
「本当に、ありがとうございます」
かしこまって深々と頭を下げる彼女を、ただ見つめる。
60: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:01:06.46 ID:r5zFZECu0
アイドルになって、彼女の生活は大きく様変わりした。
プロダクションの女子寮に引っ越し、他のアイドル達と寝食を共にするようになった。
61: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:01:52.74 ID:r5zFZECu0
そして彼女は自分がアイドルとして稼いだ給料の殆どを、教会に寄付した。
ときおり空いた時間を見つけては、教会に赴くこともよくあった。
62: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:05:15.52 ID:r5zFZECu0
「今日は事務所じゃなくて、教会に行った方が良かったんじゃないか」
そう言うと、彼女は形の良い頭をふるふると振った。
「教会にはいつでも行けます」
63: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:06:50.96 ID:r5zFZECu0
「クラリス」
僕は小さく彼女の名前を呼んだ。
テーブルに目線を落としている彼女からの返事はなかったけど、耳をそばだてているようだった。
64: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:08:18.34 ID:r5zFZECu0
「……私は今まで自分が行ってきた選択を、一つとして悔やんだことはありません」
「修道女として生きてきたことも、アイドルとして生きることを選んだことも」
「お金を稼ぎ、教会を守るためという気持ちがあったことを、否定はしません」
65: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:09:09.13 ID:r5zFZECu0
「ずっと、誰かの足元にひかりを照らしてあげられる存在でありたかったのです」
66: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:09:58.11 ID:r5zFZECu0
「祈ることしかできなかった私に、あなたはアイドルという可能性を提示してくださいました」
「私にしか持ちえない価値だと言って、背中を押してくださいました」
「お礼を申し上げるのは、私の方です」
67: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:11:41.95 ID:r5zFZECu0
「……歌が好きです。歌うことが、小さかった頃から。これだけはずっと変わることはありません」
「あなたがあの日、私が心から愛する歌に人を幸せにする力が備わっていると言ってくださった時に、アイドルとしての私が生まれたのです」
68: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:12:36.93 ID:r5zFZECu0
神様の存在を信じるという感覚が、今一つ理解できなかった。
なぜって、その姿を見たことがなかったから。
69: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:13:53.87 ID:r5zFZECu0
「お祈り、しても構いませんか?」
重ねた手をそのままに、上目遣いに彼女が尋ねてくる。
「あれ、今まで祈る時に許可なんて取ってたっけ」
70: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:14:20.59 ID:r5zFZECu0
「これからの私達の、あたたかで素晴らしい日々に」
71: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:16:15.73 ID:r5zFZECu0
両手の指を胸の前で組み合わせて、彼女が祈る姿をよく見かけることがある。
ライブが始まる前の楽屋や、事務所の給湯室など、どうやら祈る場所や時間に決まりはないらしい。
時折、彼女は祈りながら小さくなにごとかを呟くこともある。
72: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 16:17:14.98 ID:r5zFZECu0
以上になります。
読んでくださり、ありがとうございました。
73:名無しNIPPER
2017/10/01(日) 23:52:26.42 ID:qxoaOu/60
穏やかで温かい雰囲気で読みやすいSSでした・・・クラリスは個人的に(肇や聖同様)知名度が上がればもっともっと人気面でものびしろのあるアイドルだと思うので、クラリスもっと流行れ♪
74:名無しNIPPER[sage]
2017/10/23(月) 22:11:11.90 ID:tczG8v5b0
よかった……すーッと心に入ってくるSSでした
冬の寒さの描写がよかった
乙
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