212: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/05/23(水) 17:55:10.66 ID:YsdTWoQ5O
 宵闇の中で、何かが動いた。 
 ぴしり、と幹の割れる乾いた音。 
 灌木から灌木へ、素早く疾る影。 
 家畜小屋で牛に穀物を与えていた主人は、手を止めて辺りを見渡した。誰もいない。 
  
 宿屋の主人「気のせいか」 
  
 再び牛へ向き直る。 
 家畜の様子がおかしい。 
 小屋の奥に、固まっているのだ。 
 危険を避ける、生物の本能と言うべきか。 
  
 宿屋の主人「何がそんなに怖いんだ」 
  
 訝しみながら主人は小屋の外へ出た。 
 外に繋いであるロバに乗り、麦畑を一周する。 
 不審者が潜んでいる気配はない。 
 家畜小屋へ戻ろうと主人が馬首を巡らせた 
  
 刹那。 
  
 ヒョウと風を切る音。 
 鋭い痛みが左肩に走る。 
 見れば、矢が深々と突き刺さっているではないか。 
  
 宿屋の主人「この矢羽……!?」 
  
 四方八方から手が伸びてきて、鞍上の主人を地面へと引きずり倒した。抵抗する間もなく、後ろ手を縛り上げられる。 
  
 女「お頭! こいつ殺っちまってもいいですか!?」 
  
 男「やめろ、阿呆。同族殺しは禁忌だろうが。2、3人監視をつけて、どこか目につかない場所に転がしておけ」 
  
 女「でも、こいつはお頭の仇じゃ……」 
  
 男「仇だからって掟を破ればハザラの恥だ」 
  
 女「さすが、お頭!」 
  
 男「片っ端から探し出せ。他にもいるはずだ。ハザラの魂を悪魔に売った、とびきりの阿呆共がな」 
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