喜多見柚「アタシにとっての奇蹟」
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28: ◆tues0FtkhQ[saga]
2017/12/25(月) 18:29:53.44 ID:WtWlSgcZ0

 ピアノの音が響き始める。


 最初の1音目は多分外したと思う。それでも、周りのみんなの笑顔でどうでもよくなっちゃった。有名なクリスマスソングが小さな教会に響く。同じくらいの年の子からもっと小さな子まで、街にあったかさを届けるような声で歌う。


 少しぎこちなくても、うまくできなくても、いいような気がした。アタシから隣の子へ、さらにその隣の子へ。クリスマスの浮かれた気持ちが、心からあふれる楽しいに変わっていく。


 今はこの楽しいに身をまかせて!


 ふと、寄せ集めの合唱団の向こうに、お兄サンの顔を見て、自分も笑ってるってわかった。そのまま周りを見渡すと、いろんな楽しいが混ざり合って、イルミネーションみたいにキラキラしてるような、そんな気持ちになる。


 小っちゃい子の元気な姿を撮ろうとするお父さん、お母さん。手をつなぎながら音に合わせて一緒に小さく揺れるカップルのヒトたち。何かに祈りを捧げるようなそんな様子のおばあちゃん。


 なんてことのないアタシの唄が、回り回って、初めて出会った人たちの笑顔を作っていく。赤、黄色、緑、水色、オレンジ、ピンク。みんなの顔が、カバンが、服が、帽子が、手に持ったプレゼントが。モノクロみたいに見えたこの街にきれいな彩りを加えているんだって気付けて、アタシはどうしようもなく嬉しくなった。


 もしかしてアイドルも、こんなことなのかな。そうだったら、いいな。


 最後のピアノが、すーっと消えて。パチパチと小さな拍手が、だんだんと大きくなっていって。アタシは大好きだったはずのクリスマスの空気を、やっともう一度好きになれた気がした。


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