20: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/05(土) 11:19:13.70 ID:sqRoe9hI0
「そういえば、プロデューサーが事故にあったってのは?」
「えっと……昨日、私が公園でスカウトを受けまして」
「うん」
「私はそれを断って、公園から出て行ったんですが」
「あれ? 断ったん?」
「はい。ですけど、追いかけてきたプロデューサーさんが目の前で車にはねられて……私が駆け寄ったら、血まみれのプロデューサーさんが私の手を握って、『たのむ、アイドルになってくれ』と……」
「おいおい……」
「救急車を呼ぶから離してくださいって言ったら、『スカウト受けてくれるなら離す』って……」
「うーん……」
「それで私は……アイドルでもなんでもなりますから救急車呼ばせてください、と……」
またとんでもないスカウトもあったもんだ。というか、それ普通に脅迫じゃなかろうか。
「私のせいで……」
「誰のせいとかはとりあえずいいや。それよりほたるちゃんさ、アイドルやりたいの?」
「え……」
「たぶんそれ法的にアウトだからね。もう契約済ませちゃったとしても、無効にしようと思えばできるよ」
「そう、ですか……じゃあやっぱり、断ったほうが……」
「とりあえず質問に答えてくれるかな、アイドルやりたいのかどうなのか」
「……私は、アイドルなんかやっちゃいけないんです。……みんなを不幸にするから」
「だーかーら!」
あたしはほたるちゃんの両頬をつまんで横に引っ張った。やわらかい、大福のようだ。
「質問に答えんかい! 今は不幸とかどうでもええねん! あたしはほたるちゃんの気持ちを訊いてんの! やりたいかやりたくないか、二択だよ、どっち?」
「いひゃいれふ、はらひてくらはい」
「はいよ」
最後にちょっと強めに引っ張って、あたしは手を放した。
ほたるちゃんは涙目になってかすかに赤くなった頬をさすっていた。
「あんね、答えが『やりたくない』なら、それで話は終わりだよ。引き止めもしない。……で、どうなん?」
返事は返ってこない。
ほたるちゃんはスカートの裾をぎゅっと握り、唇を固く引き結んでうつむいていた。そして、声ももらさず、肩を震わせるでもなく、表情すら変えずにぽろぽろと涙だけを流した。
よくない泣き方だ。まだ子供なんだから、どうせ泣くならもっと大声をあげて泣きわめいたほうがいいのに。
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