7:名無しNIPPER[sage saga]
2018/07/14(土) 17:46:32.29 ID:TXxgAIfuO
  軽やかな笑い声を残して、セイラムは駆け出しました。廊下を走るのもまた聖職らしさに欠ける行為で、神父様は眉間のシワに中指を添えてため息をひとつ。 
  
 「……セイラムのことは、見習わないように」 
  
  私にそう言う彼を見るのは、何度めだったでしょう。私は苦笑だけでこたえました。 
  
  ご不興を買ってしまわないよう音を潜めた徒歩で廊下を渡り、表戸を開けて外庭に出ると、窓拭きのためにバケツと雑巾を準備したセイラムがいました。 
  
 「あ、来た来た」 
 「申し訳ありません。お待たせいたしました」 
 「先輩を待たせるなんて、いい度胸してるじゃない。走って来なきゃでしょ?」 
 「私まで叱られてしまいます」 
  
  袖をまくりあげたままのセイラムが、力強く雑巾の水を切りました。隣で同じようにすると、濡れ手に吹く北風が痺れるような刺激を連れて来ます。 
  
  青い空は冷たく遠く。秋は過ぎ、本格化する冬の凍てつきは日向にも霜を降りさせていました。 
  
 「頭でっかちなんだって、あのひとは。ここで仕えるなら覚悟しときなね?」 
  
  彼女の言い草はひどいものでしたが、その口調の中にはおどけたような優しさがありました。 
  
 「もう、すっかり。覚悟はできてしまいましたよ」 
  
  そう返すと、「それは重畳だ」とセイラムは肩をすくめました。 
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