1:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 17:49:25.14 ID:/0fmTk1PO
自分の前世書を思い出す度に憂鬱になる。
有名大学を卒業して、大手商社に入社。美人の妻を迎え、子宝にも恵まれた。
世間で言う、立派な人生ってやつだ。僕には些か荷が重い。
今生の僕はそんな大層な人間ではない。中高生の頃は周りに馴染めずに学校を休みがちだったし、勉強だって得意じゃなかった。運動神経も容姿も、人並みよりは劣っていると自認していた。
それなのに僕が推薦で一流大学に入れたり、就職活動を始めてすぐに大手商社に内定をもらえたのは、前世書のおかげに他ならない。
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2:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 18:10:32.76 ID:Lk7EkXPWO
僕の祖父ちゃんが生まれるよりもずっと前から、前世書というものは存在していたという。
科学の発達によって、血中の何ちゃらを解析すると、その人の前世が分かるらしい。赤ちゃんが生まれて、親が最初に気にするのは前世がどんな人物だったかそうだ。
子供は生まれるとすぐに前世検査にかけられ、お母さんが退院する頃に前世書を配布される。それには、前世の詳細が本人の日記であるかのように記入されている。
3:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 18:14:29.46 ID:Lk7EkXPWO
ともかく、現世の僕とは似ても似つかない前世を与えられたせいで、僕は苦悩している。
今の僕を振り返ると、前世がそんなに優れていた人物だとは思えなかった。
幼い頃は、それを主張したこともあった。けれども、「前世書が嘘を書くはず無い」と、妄信者たちに跳ね返されるだけだった。
4:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 18:19:14.37 ID:Lk7EkXPWO
自分が矮小な人間だと自覚したうえで、前世ではなく僕自身を評価されたかった。
僕を見る彼らは、僕では無い彼を見ていた。
そんな僕の孤独を理解してくれたのは、神南佐和だった。幸運なことに、彼女は隣の家に住む幼馴染みだった。
5:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 18:22:10.24 ID:Lk7EkXPWO
佐和が指さした前世書に並んでいたのは、殆どが前世の妻の男性遍歴だった。
前世の僕と近づくべく、彼女は多くの男と体を重ねていた。邪魔な女を消すために、僕に良いように紹介させるために。その中には前世の親友や上司の名前もあった。
「幻滅した?」
6:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 21:54:20.91 ID:Lk7EkXPWO
「つまり先輩は、前世のおかげで美味しい思いをしておきながら、それを否定したいわけですね」
前世研究会の後輩である、折原綾子が口を開いた。
彼女は今年の新入生で、僕以外では唯一の会員でもある。三年前に僕が入会した時も、四年生に一人先輩がいただけだった。
7:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 22:02:47.78 ID:Lk7EkXPWO
折原は、この研究会に入ったことを除けば真っ当な感覚の持ち主だった。綺麗なものを綺麗、醜いものを醜いと言える人間だった。
僕や佐和とは違う感覚を持つ彼女と討論をするのは、中々に有意義だった。世の中のマジョリティな感覚、僕らが持ち合わせていないものを再確認することができるからだ。
「僕は捻くれているんだ」
8:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 22:11:42.12 ID:Lk7EkXPWO
「しかしどうして、僕にこんな立派な前世がきたのかと思うんだよ」
殆どの場合、前世書に載っている人物に近づいていく、あるいは何かしらの共通点くらいはあるものだ。
佐和の場合は容姿であったけど、考え方や行動の選択肢など、内的なものもそこには含まれる。
9:名無しNIPPER
2018/08/22(水) 22:31:17.87 ID:Lk7EkXPWO
もし、折原の言葉が真実だとすると、神様はとんでもない間違いをしたものだ。
「というわけで、私は神様の過ち説に一票入れます」
どうだ、と言わんばかりのわざとらしい笑みを浮かべ、折原は購買で買ってきていたシュークリームを口に含んだ。
10:名無しNIPPER[sage]
2018/08/30(木) 09:23:05.34 ID:h8QNEhpL0
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