79: ◆GO.FUkF2N6[saga]
2018/12/26(水) 19:07:09.66 ID:9rFSBGbj0
 「……いや、だ」 
  
  瞼からなにかが溢れてきた。 
  
  あたしみたいな理解不能な生き物をママって呼んでくれて。 
  こんなあたしでも家族になれるって思えてきたばかりなのに。 
  やっとごろんと横になって眠れる居場所を見つけたのに。 
  
  やだやだやだ! 
  
  献立だってめんどくさがらずに考えるよ。 
  お掃除だって、お仕事だって、なんだって。 
  きみと一緒にいられるなら、どんなたいへんなことだって笑ってできるから。 
  
  だから。このままずっとあたしと──。 
  
  どうしようもなく震える背中を小さな掌がさすってくれた。 
  
 「志希おねーさんもさびしいでごぜーますか?」 
  
 「……うん。さびしい、よ」 
  
  わかってる。 
  いかないで、なんて言わないよ。 
  親子でも言ったらいけないことだってきっとある。 
  キミには笑っていてほしいから。 
  だから仁奈ちゃん、そんなに心配そうな顔しないで。 
  あたし、だいじょうぶだよー。 
  
  
 「こんどね、パパに会いにいくよ」 
  
  小さくてあたたかい手を握る。 
  
 「会ってなにをすればいいのかわからないし、もしかしたら会ってくれないかもしれないけど、それでもお願いしてみるよ。 
 だからさ、いつでもいいから、またこうやって一緒に寝てもいいかな?」 
  
  仁奈ちゃんはうれしそうに、とろけるような笑顔であたしの手を握り返してくれた。 
  
 「もちろんでごぜーます! いっぱいいっぱいお昼寝するですよ」 
  
 「うん。……仁奈ちゃん」 
  
 「はい」 
  
 「おやすみ」 
  
 「おやすみなさい」 
  
  
  ぎゅっとその体を抱きしめると、シャンプーの香りに混じって鼻をかすめるものがあった。 
  
  このにおいのことは、もちろん知っている。 
  かわいくて、明るくて、悲しいときもあるけど、あたたかい。 
  
  どんな偉大な学者にだって分類できっこない、あたしの、居場所のにおいだ。 
  
  
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