【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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24: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:03:34.44 ID:Wp4M41Qe0
 「……戻りました。大沼さんとそこで会ったので、一緒に」 
  
  ちひろさんの背後の扉が開いて、穏やかな声がした。 
  プロデューサーさんとくるみちゃんが、部屋の中に入って来た。くるみちゃんは両手を胸のところでぎゅっと握って、とても不安そうな顔をしている。はぁとさんの声は事務室の外にも聞こえていたみたい。 
  プロデューサーさんはいつもの調子で、部屋の中に歩いてくると、帽子を脱いで長机の上に置いた。 
25: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:04:36.41 ID:Wp4M41Qe0
 「それでは、小日向さんがいませんが、全体に関わる連絡を。ユニットの活動に関して、曲と振付を発注しています」 
  
 「えっ!」 
  
  私の口から思わず声が漏れた。マキノちゃんも目を見開いていたし、はぁとさんも一瞬手が止まり、プロデューサーさんのほうを見た。 
26: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:05:59.39 ID:Wp4M41Qe0
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  それからしばらく経ったある日の午後、私は美穂ちゃんと一緒にお昼を近くの喫茶店で済ませてから、事務室のドアを開けた。 
  事務室の中の椅子に、マキノちゃんが真剣な目をして座っていた。 
  私と美穂ちゃんは、ふたりとも入り口のところで固まってしまった。 
27: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:07:21.27 ID:Wp4M41Qe0
  扉が閉まって、少しして、私は無意識に止めていた息を長い時間をかけて吐き出した。 
  ――観たい。サマーフェスでマキノちゃんはバックダンサーとしての出演だけれど、マキノちゃんを観たい。 
  きっと、すごいマキノちゃんが観れる。 
  私は膝の上に置いていた両手をぎゅっとにぎった。 
  その時、事務室の扉が開いた。プロデューサーさんが中に入ってくる。 
28: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:08:30.42 ID:Wp4M41Qe0
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  そうして、美城プロダクション、サマーフェスの当日がやってきた。 
  私はくるみちゃんを引率して、開演前に舞台裏でくるみちゃんに舞台の説明をする。 
  初めて見る舞台裏が珍しいのか、くるみちゃんは口をあけたまま、目を輝かせてあちこちを見ていた。 
29: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/10(月) 22:09:31.32 ID:Wp4M41Qe0
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  開演前のアナウンスが終わってしばらく経ち、客席で鳴っていたBGMは徐々に大きくなる。それと同時に、客席の照明は暗くなり、お客さんが持っているペンライトの色とりどりの光だけが残り、そして、お客さんは期待の声を大きくする。 
  
 「始まるよ、くるみちゃん」 
30: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/10(月) 22:10:44.97 ID:Wp4M41Qe0
 折り返しです。 
 次回は12/13に更新予定です。 
31: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/13(木) 19:55:11.12 ID:xAj2PbQr0
 4.Juglans 
  
 「うっ、うえっ、ふぇ、ひぐっ、ひっ、うえええ、びえええええ〜〜!」 
  
  大型家電量販店のスタッフルームに用意された待機場所で、くるみちゃんはとうとう声をあげて泣き出してしまった。涙はあとからあとからあふれて、衣装の袖はびっしょり濡れちゃってる。 
32: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 19:57:45.63 ID:xAj2PbQr0
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 「今日はよろしくおねがいします!」 
  
 「よろしくおねがいしましゅ……します」 
33: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 19:59:39.74 ID:xAj2PbQr0
  しばらく続けていて、嬉しい誤算があった。くるみちゃんの舌ったらずな呼び込みはかえってお客さんの耳に残り、くるみちゃんの健気な様子がお客さんの心を打ったみたいで、くるみちゃんからクリアファイルを受け取ってくれるお客さんがたくさんいてくれたこと。 
  直接くるみちゃんに『がんばってね』と声をかけてくれるお客さんも居て、くるみちゃんは恥ずかしそうにしていたけれど、でもそれ以上に嬉しそうだった。 
  こういうのも才能っていうのかもしれない。私よりずっと活躍してくれている。心配する必要もなかったのかも。 
  
  一回目のイベント開始時間が近づく。私たちはクリアファイルの配布を中断し、イベントの準備をすることになった。準備といっても、イベントの流れを確認するくらいで、難しいことはほとんどない。 
34: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/13(木) 20:02:36.05 ID:xAj2PbQr0
  それから十数分、イベントは問題なく進んだ。司会のお姉さんの指示で、私がアステルを使ってインターネットの検索をしたり、童話を読んでもらったり、天気予報や料理のレシピを訪ねたり、登録した照明器具のスイッチを入れたり、スマートフォンを使ってメッセージをやりとりしたり。 
  くるみちゃんのアステルの挙動に対する一つ一つのリアクションはとても新鮮で、イベントに参加したお客さんたちにも好評だった。 
  
   
  これなら、心配はいらないかな。私がそう思ったころ、それは起こった。 
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