水本ゆかり「維納に奏でる」
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1: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:05:36.43 ID:cgXM4cARO
水本ゆかりさん総選挙応援SSです

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2: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:08:06.60 ID:cgXM4cARO
 10時間以上にも及ぶ空の旅はハプニングもなく快適なものだった。とはいえ、機内放送にも飽きてきた頃にはその快適さが退屈へと変わってしまい
隣で安心したように寝息を立てている彼女の寝顔を見つめることしかできなかった。窓の外を見ても空島も天空の城もドラゴンもなくどこまでも広がる空。
子供の頃ならばテンションが上がっていたのだろうけど、四捨五入すれば30歳になる身からすれば感性が鈍ってしまったのかなにも思う事はなくなっていた。

 それでも。これから降り立つ街への憧憬はあの頃のままで、仕事ということを忘れてしまいそうになるほどにウキウキとしていた。まるで
以下略 AAS



3: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:09:14.94 ID:cgXM4cARO
「お疲れ様、ゆかり」

「プロデューサーさん……」

 ダメでした、と彼女は柔らかく笑う。清らかで彼女の人となりがよくわかる笑顔、だけど強く握られた拳とその声には隠しきれない悔しさが込められていた。
以下略 AAS



4: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:11:31.49 ID:cgXM4cARO
 言い切ってしまえば、ゆかりは伸び悩んでいた。これまで仕事にも恵まれてきて彼女の努力もあり、順風満帆とまではいかなくてもそれなりに結果を出してきた。
新人アイドルとしてはよくやっている、と評価されるだろう。しかしここに来て結果が伴わなくなって来た。まるでゲームのキャラクターのステータスが限界を迎えて
レベルを上げても伸びないように、ゆかりは高い壁にぶち当たってしまったのだ。

 程度はどうであれ。スランプは誰にでもあることだし、いつかはよくなる、と言えたのならば簡単な話だけど俺はその言葉を使いたくなかった。いや、正確には使えなかった、
以下略 AAS



5: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:12:31.63 ID:cgXM4cARO
「お疲れ様です、プロデューサーさん」

「ちひろさんこそ。こんな時間までお疲れ様です」

 ゆかりを寮へと送って事務所に戻ると事務員のちひろさんが観葉植物に水をやっていた。時計を見るとそこそこいい時間だ。彼女の他に人の姿はあまり見えない。
以下略 AAS



6: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:14:36.95 ID:cgXM4cARO
「オーストリア専門の旅行代理店なんですよ」

「……オーストリア、ですか」

 ふいに右手が空気の鍵盤を叩いた。
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7: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:15:35.90 ID:cgXM4cARO
「ここだけの話なんですが、この代理店の親会社の取締役と星花ちゃんのお父上との間には浅からぬ因縁があるみたいで……」

「ははは……ある種嫌がらせみたいな起用ですか」

「大人気ない話だとは思いますけどね……」
以下略 AAS



8: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:18:18.87 ID:cgXM4cARO
「私がウィーンに、ですか……?」

 翌日。会議室にゆかりを呼んで仕事の話をする。昨日のショックが抜けきれていないのか、まだ落ち込んだ表情を浮かべていたがウィーンの四文字を聞くとそこに驚きが加わり両の瞳はガラス玉のように見開いている。

「旅行代理店のイメージキャラクターにゆかりが選ばれたんだ。ウィーンの各名所にゆかりが赴いて宣伝用の写真を撮ったりってところだね」
以下略 AAS



9: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:19:17.76 ID:cgXM4cARO
 それは十五歳の女の子が背負うには大きすぎる看板だった。なんでも依頼主の旅行代理店の営業担当が音楽祭のスタッフとも親交があるらしく、
近年世界中で注目されている日本のアイドルに興味を抱いたフェスの主催が営業さんに相談したらしい。そして白羽の矢が立ったのがゆかりだったというわけだ。

「私、ドイツ語は挨拶程度しか喋ることができませんし……本当に私なんかでいいのでしょうか?」

以下略 AAS



10: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:20:28.30 ID:cgXM4cARO
「こんな形でウィーンに来ることになるとはなぁ……」

 小僧の頃の俺、夢は叶ったぞ。思い描いている形とは違うけどもね。

「えっ?」
以下略 AAS



11: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:24:40.45 ID:cgXM4cARO
「ここがウィーン……」

「といっても、玄関口になる空港だけどな」

 ウィーン国際空港は冷戦の際にオーストリアが中立国家を貫いていた背景もあってか東欧や中東への乗り換え客も多いそうだ。
以下略 AAS



12: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:25:13.22 ID:cgXM4cARO
 爪先立ちをして待ち合わせている人を探すとご丁寧にツアーコンダクターが持つような旗をはためかせている姿が見える。
事前に貰っていた資料に掲載されている写真と見比べる。どうやらあの人が案内役らしい。

「お待ちしておりました! 水本ゆかりさんと担当のプロデューサーさんですね? 私、サンヨウツアーズの村松と言います」

以下略 AAS



13: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:27:30.27 ID:cgXM4cARO
「見てください、プロデューサーさん。馬車が走っています」

「ば、馬車? ほんとだ……」

 ウィーン市街地までの風景を楽しんでいた俺たちの横を優雅に石畳を歩く二頭の白馬に引かれた馬車が通り過ぎる。
以下略 AAS



14: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:28:04.79 ID:cgXM4cARO
「ふぅ……」

 ホテルに荷物を置いて一息つく。白を基調とした部屋の中は清掃が行き届いており、寝泊まりするのももったいないくらいだ。机の上置かれているウェルカムフルーツの甘い香りが心地よい。
窓の外を見ると先ほどとはまた別の馬車がパカラパカラと歩いている。目で鼻で耳で感じる東京にはない風景に、憧れのウィーンに来たんだという気持ちが強くなって行く。

以下略 AAS



15: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:28:40.57 ID:cgXM4cARO
「ん……」

 どれくらい眠っていただろうか。重たい瞼を開けて軽く頭を振る。

「あれ?」
以下略 AAS



16: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:32:45.80 ID:cgXM4cARO
「グリュースゴット、ゆかり」

 オーストリア語というものはなく、母国語はドイツ語だ。しかしグーテンタークという挨拶はあまり使わず、グリュースゴットが主流らしい。
元々はカトリック教の「汝に神のご加護がありますように」といった意味だとか。グーテンタークが通じないわけではないけども、カトリック教徒の多いオーストリアではこっちの方が一般的に使われるのだ。

以下略 AAS



17: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:33:54.74 ID:cgXM4cARO
『無事ウィーンに着いたんですね』


「ええ、お陰様で」

以下略 AAS



18: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:35:16.54 ID:cgXM4cARO
「唇にお髭ができていますよ?」

「えっ? あぁ、泡のことね」

 舌で上唇についた泡を舐める。三分の一くらい飲んだ後のグラスには泡の輪が出来ていた。
以下略 AAS



19: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:28.19 ID:cgXM4cARO
「間違ってもデレぽにあげちゃダメだぞ?」

 一応オーストリア自体は16歳から飲酒が可能だが、厄介なことになるのは避けるが勝ちだ。

「分かっています! 有香ちゃんたちに見せてあげようと思って」
以下略 AAS



20: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:36:54.11 ID:cgXM4cARO
 一滴程度のビールすら受け付けなかったあの頃を思い出す。生涯分かり合えることがないだろうと思っていた苦い水が美味しいと思えるようになったのはいつの頃だったか。
多分スーツを着て慣れないネクタイを結んで社会人と呼ばれるようになったあたりだと思う。

「私も美味しく飲めるでしょうか?」

以下略 AAS



21: ◆XUWJiU1Fxs
2019/04/25(木) 00:39:35.80 ID:cgXM4cARO
 パカラ、パカラ。蹄を鳴らしながら白馬は街中を我が物顔で練り歩く。通常の車よりも高い目線になる馬車はビルの二階の窓くらいの高さがあり、ちょっとした王様気分が味わえていた。

「カボチャの馬車ならシンデレラだったんだけどなぁ」

 オーストリアに来たのは撮影とライブのためだけど、それ以外は自由に観光する時間かある。レストランの食事を終えた俺たちはまず、ゆかりの希望でフィアカーで街中を巡ることにした。
以下略 AAS



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