芽衣子「忘れものを取りに行こう」
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1: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:39:54.27 ID:ggin5fGOo

・アイドルマスターシンデレラガールズのSSです

・並木芽衣子の一人称です



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2: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:41:03.39 ID:ggin5fGOo

 偶然の出会いなのに、一生の出会いになっている。

 その文字を下にした私物のボストンバッグを持った自分の写真を見て、胸の奥がこそばゆくなった。

以下略 AAS



3: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:41:55.69 ID:ggin5fGOo

 今日の事務所は比較的静かだった。人がいないっていうのもある。帰ってきて早々「ちょうど良かった」って言ってちひろさんは出かけて、使用中の札がかけられた休憩室にはプロデューサーが休んでいるんだとおもう。わんぱくな子供たちは誰もいないし、志乃さんはソファの端っこに顔をつっこむようにして寝てる。留守番を任せてくれたちひろさん曰く「起きないから気にしないで」って、ちょっとだけ笑顔がこわかったのは気のせいかな。

 ホワイトボードに書かれた予定を手帳に書き写して、ちひろさんが帰ってくるまでどうしようかなーっと事務所をウロウロ。

以下略 AAS



4: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:43:16.04 ID:ggin5fGOo

 とりあえず座ろう。でもソファは志乃さんが占領しちゃってるし、向かいに座るのもなぁ、と考えた結果、プロデューサーのデスクのイスに着地した。書類とか資料が端っこにまとまって重ねられていて、書くスペースだけ確保してる。これはどう見たって片付けているとは言えない状態だった。だけどこれを片付けでもしたら「自分がわかるように置いていた」って文句が飛んでくるに決まっている。だから私はノータッチを貫く、そう、席を借りるだけ。私はなにもしなーい。



5: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:44:55.35 ID:ggin5fGOo

 飲み物でも買ってくればよかったな、って考えていると、あるものに視線が止まった。なんだろう、らしくないっていうか、プロデューサーと結びづらいものというか、いや、仕事で使うのかも。それにしたって意外だった。次に「懐かしいなぁ」って気持ちがきた。物を重ね重ねて作られた山の頂上に置かれた一冊の文庫本を手に取った。

 白と黄色のビビッドな表紙はどこに置いたって目に付く。触ってわかったけどまだクセがついてない、買ったばかりなんだとおもう。クリーム色の紙の上に置かれた文字を流し見しながらパラパラと軽快にめくってく。ページの真ん中でくるんと半分に折れたスピン(カタカナなのに日本でしかこう言わないみたい。英語じゃブックマークだって)を見て、やっぱり買ったばっかりだって確信した。そのページのお話はこの本の中でも一番ひんやりしたもので、私はあんまり読んでなかったなぁ。コロッサールな悲しみっていう言葉はずっと覚えてるんだけど。



6: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:45:35.77 ID:ggin5fGOo

「撮影終わったのか」

 突然背後から声がして、わっ、とイスごと倒れそうになった。

以下略 AAS



7: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:47:08.36 ID:ggin5fGOo

「なにか用事が?」

「うん、もう終わったけど」そう言ってデスクの上に置いた手帳をとんとんって指で叩くと、プロデューサーは「あぁ」って納得したみたいだった。

以下略 AAS



8: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:48:05.88 ID:ggin5fGOo

「こう言うのはなんだけど」

 じいっと私を見てきて「ふむ」と小さく呟いたとおもったら「似合わない」と突然なんだっていうのさ。

以下略 AAS



9: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:48:40.06 ID:ggin5fGOo

「でも本当にプロデューサーが読書って印象なかったなぁ」

「そうか?」私から本をとるとページをめくって読み始めた。うん、やっぱり似合ってない。

以下略 AAS



10: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:50:31.48 ID:ggin5fGOo

「どうした?」

 心配してくれたプロデューサーに「ううん」って言って次に

以下略 AAS



11: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:52:43.96 ID:ggin5fGOo

 高校生の私は悩んでた。世の中ってなにをするにもお金を使うってことに。いや、それは当たり前なんだけど、高校生にとっては五百円硬貨だってお札と同じくらいの価値がある。私は普通の家庭に生まれて普通の人生を送ろうとしているごくごく普通の学生だ。お小遣いなんて想像よりも少なめなのに、その物欲はイコールじゃ結べない。次の支給日までまだあるのに、いつも読んでいる雑誌が買いたいのに、お財布の中はあまりに心許なかった。

 うんうん考えて考えて、そして私はひらめいた。

以下略 AAS



12: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:53:48.01 ID:ggin5fGOo

 市の図書館ならありそうだけど、家から気軽に行ける距離じゃない。買わなくていいなら本屋で立ち読みでもいいんじゃないって言われるだろうけど、図書館図書室なら座って読める。それはすっごく大きい。

 早速行動! と入学してから初めて踏み入れる図書室に。

以下略 AAS



13: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:54:27.76 ID:ggin5fGOo

 ジャマしちゃ悪いかなぁ、なんておもいつつ、話さないとどうしようもない。心の中でごめんねー、って言いながら近づくと、なんだろう、見覚えのある。あ、クラスメイトだった。

「ねぇねぇ」

以下略 AAS



14: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:56:02.51 ID:ggin5fGOo

「それ、面白い?」

 彼女の手元にある本を覗くと文字がびっしり、いや、当たり前だけど。

以下略 AAS



15: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:56:50.62 ID:ggin5fGOo

「本のリクエストって図書委員に言えばいいのかなーって」

 カウンターに座っているから図書委員だって決めつけて話しちゃってるけど、これで違ったらどうしよう。そんな私の不安を飛ばしてくれたのは一枚の紙だった。

以下略 AAS



16: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:57:27.90 ID:ggin5fGOo

 リクエスト用紙を受け取って「ここに書けばいいの?」って聞くと、「はい」ってまた敬語。イヤってわけじゃないし別にいいんだけど、それが慣れなすぎて背中がこそばゆくなる。

「敬語じゃなくていいってば」そう言うと、目の前の彼女はちょっと照れたみたいに笑った。あ、笑った顔、かわいい。

以下略 AAS



17: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:58:00.04 ID:ggin5fGOo

「雑誌って置けるのかな?」

 図書室を使ったことがないのが丸わかりな質問だなぁ、なんて口にしてから気づいた。

以下略 AAS



18: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 00:59:14.28 ID:ggin5fGOo


 *


以下略 AAS



19: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:01:16.93 ID:ggin5fGOo

 本を読まないってわけじゃなかった。ただ本を読むって習慣がなかっただけで、これでも小学生のときは図書委員をやったことだってある。まぁ、じゃんけんで負けちゃったからって理由なんだけど。そうだ、小中学は読書週間ってものがあって、朝か昼かに必ず本を読む時間があった。高校にはそれがないって義務教育外だから?

 机の上で猫みたくぐいーんって腕を伸ばして大きなあくびをした。ガマンしたつもりだったんだけど声が出ちゃってたみたいで「眠くなっちゃうよね」ってまた余計うつらうつらしそうな優しい声がカウンターから届いた。

以下略 AAS



20: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:02:23.93 ID:ggin5fGOo

 私がリクエストした雑誌が図書室に置かれることはなかった(なんとなくわかってたことだけど)。じゃあ本もまともに読まない私がなんでここに? って自分でもおもう。友達にも担任にも同じ質問をされたけど、毎回答えは「さぁ?」で、そして返ってくるのは「芽衣子(担任からは並木)らしいね」って、こっちも頭の上にハテナを飛ばすことになる。

「ひどくない? それが私らしさって、もうひどいの二乗だよ。友達に言われるならまだいいけど、それが教師の言うことかーってさぁ」

以下略 AAS



21: ◆ksPx5/M7Wg[saga]
2019/05/08(水) 01:04:14.74 ID:ggin5fGOo

 もう一度背伸びをしてからしおりを挟んだページを開く。本を読むということが習慣付いてない私にとって短編集っていうのはすごく都合良かった。彼女が勧めてくれるのは所謂古典って呼ばれるような作品が多かった。私でも作者か作品の名前のどちらかを知ってるような。古典って言われたらなんだか身構えちゃうけど、実際読んでみるとスラスラいけちゃうし、なにより一編自体がそんなに長くないから「ここまで読もう」がやりやすかった。たまーに見慣れない言葉につまずくことはあったけどささいなことだった。それに、この読書という行為が私の日常の中に当たり前に入ってるものじゃないっていうのがなんだかドキドキした。知らない場所に行くときの気持ちに似てた。それも続いている理由だとおもう。



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