41: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:23:46.66 ID:9pdDfgPfo
   
 「たまきわかった! 今、『元気です』って言ったぞ! あと、『ありがと』って!」 
 「おぉ〜……歩さん、エミリーちゃんと、言葉通じたよぉ。 こりゃうれしいねぇ」 
 「いいぞーひなた、頑張って練習したかいがあったな」 
  
42: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:24:18.81 ID:9pdDfgPfo
   
 「じゃあ、これからもエミリーとおしゃべりするために、英語の勉強がんばるぞ〜! エイエイオー!」 
 「エイエイオー!」 
 「エイ、エイ、オー!」 
  
43: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:25:11.33 ID:9pdDfgPfo
   
 * 
  
 事務所での勉強会を始めてから一週間が経った。 
  
44: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:25:53.44 ID:9pdDfgPfo
   
 だが学習の効果はそこでピタリと止まった。 
 翌日を境に、そこから何日待てども勉強の成果が一切出なくなってしまった。 
 次の日も、また次の日も、今まで使えていた難しい言葉の一つも思い出すどころか、 
 その日にノートに書き込んだことすら、夜には満足に思い出せなくなってしまう。 
45: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:28:21.72 ID:9pdDfgPfo
   
 ────── 
  
 エミリーは四歳のとき、初めて日本語を知った。 
  
46: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:29:31.59 ID:9pdDfgPfo
   
 彼女と知り合い、触れ合って、すっかり仲良くなったエミリーは瞬く間にその子の魅力にとり付かれた。 
 そしてその子が帰国する日になり、別れ際、エミリーは泣きじゃくりながらわずかに覚えた片言の日本語でお礼を述べると、その子はこう返したという。 
  
 「いつか立派な大和撫子になって、日本に来なさい」 
47: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:32:07.88 ID:9pdDfgPfo
   
 俺はふと、以前見かけた幼いエミリーの描いた絵のことを思い出した。 
 エミリーの父親が持ってきてくれた箱の中にあった、黒髪の女の子が一緒に描かれた絵だ。 
 巨大なダンボールへ近づき、黒い丸筒をまた取り出して、中身をもう一度見てみる。 
  
48: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:33:35.11 ID:9pdDfgPfo
   
 それにここ最近のエミリーに元気がないのがやはり少し気になる。 
 小さくお礼を言う彼女に、改めて質問してみた。 
  
 「あのさ、この絵を描いたときのこと、覚えてないんだよな?」 
49: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:34:51.57 ID:9pdDfgPfo
   
 * 
  
 エミリーは以前言っていたとおり、曲の振り付けは体できっちり覚えていた。 
 二週間程度のブランクがあったものの体調は万全と見え、今まで通りに他のメンバーと肩を並べ、一曲通してのダンスをやりきろうとしている。 
50: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:36:01.79 ID:9pdDfgPfo
   
 エミリーを気にかけていた他のメンバーを一旦外させ、俺と伊織の三人だけでリハをやってみる。 
  
 「エミリー、歌えるか? 歌詞、覚えてる?」 
 「…………ダイジョウブ……と、おもいます」 
51: ◆AsngP.wJbI[saga]
2019/06/10(月) 22:36:47.15 ID:9pdDfgPfo
   
 だんだんと掠れ声になっていった歌声は一番のサビが終わるか終わらないかでついに聞こえなくなった。 
 「止めましょう」と伊織は言ったが、なんとか口だけでも動かしているのがかすかに見えたのと、 
 振り付けはまだ続いていたのでもう少し待つ。手足の動きも少しずつ弱々しく、小さくなっていく。 
  
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