男「明日死ぬ彼女に向けて」
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7:名無しNIPPER
2019/06/11(火) 12:32:10.27 ID:8Kxlpx7EO

「どうすればよかったのかなあ。ふふふ」
「……」
「キミは私が間違ってたと思う?」

 何と言おうか、なんと庇おうか。下手な嘘はただ彼女を傷つけるだけだ。
 だから「そうだよ」と僕は言った。

「そうだよ、ね。そんなこと、聞かなくてもわかってたんだよ。つまらないこと言ってごめんね」

 彼女は賢い。間違いを認めることができる。だが、完璧な人間など存在しない。ミスをした後の行動をほぼ完璧にできても、ミスをゼロにするということはできない。
「それでも」と僕は言う。
「現時点のきみは間違っちゃいなかった」
「ふふふ。慰めてくれるの?」

 ああだめだ。これでは彼女には届かない。

 直観的な感覚は僕の口を縫い付けた。
 なにもできなかった。何も言えなかった。
 彼女が泣いている。泣いているのだ。
 何とかしてやりたいと思う。
 ……でも。

 二人で風の吹く景色を眺めていた。ほの暗い空間。取り残されたような感覚。
 場は、限りなくロマンチックだった。僕と彼女だけが存在していた。
 取り残された世界で僕は考える。

 法、という文字が頭に浮かぶ。それはルールだ。
 現実、という文字が頭に浮かぶ。それは拒めないものだ。
 理想、という文字が頭に浮かぶ。それは役に立たないものだった。

 ……本当に? 本当にそうか?
 僕は口を開く。

「現実にはルールが存在する。理想が付け込める場所はない。そんか結論だったよね」
「そうだね」
「そうかな?」

 細かく要素を抜き出す。かみ砕いて消化する。

「きみは正しい行動をする必要はない」
「……そんなこと、ない」

 彼女はいつだって清廉潔白で、誰もが救われるべきだと、信じていて。
 絶対に正しい、されど現実に通用しない理想論。

「妥協しなきゃいけないんだよ。誰かのために動いて自分が破滅したら意味がない」
「そんなこと、ない!」
「でもここは、現実なんだ」

 不可能なことは不可能だと、誰だって気づいている。

「じゃあ諦めるのが正しいの? そんなわけ、ない」
「でも現に僕らはなにもできない」


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