33: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/03(土) 01:38:34.75 ID:GHTuQabuo
 >>32 
 ×「自身が意識しないところで、自然と元大女優の立ち位置入り込めていたのかもしれない」、と。 
 ○「自身が意識しないところで、自然と元大女優の立ち位置に入り込めていたのかもしれない」、と。 
34: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:50:02.87 ID:An8umD0so
  
 しばらく経った頃、ドアが開く音がして、このみはそこで意識を物語から離した。 
  
 「お兄ちゃんちょっと……って、あれ。」 
  
35: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:51:15.27 ID:An8umD0so
 「桃子ちゃん。プロデューサーならいま外に出てるわよ。4時は過ぎるって聞いてるけど……。」 
  
 「うーん、そっか……。」 
  
 このみは桃子が手帳を小脇に抱えているのを見つけた。 
36: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:51:56.84 ID:An8umD0so
 桃子はテレビに映るコレット達の姿に目を向けた。 
  
 「『屋根裏の道化師』?」 
  
 「ええ。そうだ、桃子ちゃん。時間があったら、一緒に見ない?」 
37: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:52:23.72 ID:An8umD0so
  
 んしょ、と可愛らしい声とともに桃子はソファーに腰掛けた。 
  
 「巻き戻そっか?」 
  
38: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:53:03.55 ID:An8umD0so
 このみは桃子の言葉を聞いて、改めていま自分がこうしているのが不思議だな、と感じていた。 
 学生時代の頃からドラマなどの映像作品を見ることはしばしばあったが、まさか自分が出演する側になるとは思ってもみなかった。 
 それどころか、見知った仲とはいえその共演者とこうしてその作品を見返しているというのは、人生何があるかわからないものだ。 
 当時の自分であれば色紙とペンを持ってサインを頼むような状況だろうな、と。 
  
39: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:53:47.28 ID:An8umD0so
  
 幾度もみた映画であったが、映画の最後、その凄惨な幕引きは、二人をその場から動けなくさせるには十分すぎた。 
  
 「演じること」。 
 劇場の女優たちはただひたすらにそれを追い求め、それぞれが持つ矜持に従い生きている。 
40: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:55:46.38 ID:An8umD0so
 「鶴の恩返し、かあ。」 
  
 桃子はこのみから資料の束を受け取り、何枚かに目を通しながら呟いた。 
  
 「ええ。鶴……、娘の役はどうか、ってお話をもらっててね。」 
41: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:56:20.91 ID:An8umD0so
 「最後のところで、青年との別れがあるの。離れたくないのに、それは許されなくて。」 
  
 「初めから人間の姿をして会っていなければ、こんな悲しい思いをしなくてよかったのかな、って。」 
  
 大切な人と別れたくない。 
42: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:56:46.99 ID:An8umD0so
 「……。桃子は、……あんまりそういう風に考えたこと、なかったかな。」 
  
 「でも。やっぱり、役を掴めるまで、何回でもやるしかないと思う。」 
  
 桃子は自身の経験を踏まえたうえでそう答えた。 
43: ◆Kg/mN/l4wC1M
2019/08/15(木) 20:58:39.49 ID:An8umD0so
  
 このみはしばらくその言葉を反芻したのち口を開いた。 
  
 「……うん、そうよね。ありがとう、やってみる。」 
  
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