モバP「持たざる者と一人前」
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68: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:26:14.30 ID:BON9hvjh0
「……理由を聞いても?」

 ぎらついた社長の目に射すくめられながら、それでも身を震わせて応える。

『……証明するって、言いましたから。是非もなく、は違います。約束ですから。それに――』
以下略 AAS



69: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:26:40.89 ID:BON9hvjh0
「君が何を以て証明としようとしたか、それは分からん。だが君が口先だけでだまくらかそうとしたわけではない、とは分かった。……頭を上げたまえ」

 俺はまだ、頭を上げない。ひどい裏切りをしたと分かっているから。それに、そんなに軽い約束ではなかったと、今も思っているから。

 そんな俺の様子を見たのか、頭上でため息が聞こえた。
以下略 AAS



70: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:27:07.59 ID:BON9hvjh0
『――っ! ちょっと、待っててください!』

 口から出てきたのはそんな言葉。そして取るものも取りあえず、俺は駆けだす。

 行き交う人の雑踏の中、何かが見えた気がした。ひどく遠い。手を伸ばそうとして、つんめのった。それでも、追った。永遠にも思える一瞬、一秒だった。
以下略 AAS



71: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:27:39.75 ID:BON9hvjh0
『ええっと! そういうわけでは!』

「……ふふ、冗談だよ。もし本当に私を見つけるなら……アンタの言ったことを信じてみようかなって。今はそう思ってるんだ」

 そう言いながら見せる、はにかむような笑みに俺はもう駄目だった。思わず熱くなる目頭に、天を仰いで。眩しさなんて気にも留めず、見開いた目から涙がこぼれないように瞬いた。
以下略 AAS



72: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:28:06.30 ID:BON9hvjh0
「それで……その子が証明だと?」

『はい。この子は絶対にトップアイドルになります。それが俺の証明です。……何も“持たざる者”の俺が言っても、説得力はないかもしれないですけれども』

「わはは、驚くほどぞっこんだな。なるほど……、なるほど……」
以下略 AAS



73: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:28:38.15 ID:BON9hvjh0
「ほう? なんともはや、君に良く似合っている名前だ」

 だが社長に先に言われてしまった、と少ししょぼんとなる。そんな俺の気を知ることなく、満足げに笑い、そして言葉をつづけた。

「さて、そこの彼から話を聞いているかも……いや、この様子だとさっぱり聞いていなさそうだな。ともかく、私は新しくアイドルのプロダクションを立ち上げようと思っている。君にはその、最初のアイドル候補となってもらうつもりだ」
以下略 AAS



74: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:29:07.02 ID:BON9hvjh0
「君はさっき、自分を“持たざる者”と言ったね。確かに、それはそうかもしれない。だからこそ、君の“持てる限り”の証明、確かにこの目で見届けた。ふふふ、実に良いものだ」

『では……?』

「うむ。よくぞここまで一念を通した。それだけではない。君は“意地”と“筋”まで通した。生半な人間では、そうはいかない」
以下略 AAS



75: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:29:47.49 ID:BON9hvjh0
『渋谷凛さん。どこまでも至らないけれど、俺が君の”プロデューサー”です。でも君を必ず、トップアイドルにしてみせます。だから……よろしくお願いします』

 彼女は、どこか強気で、でも純粋な目のまま答える。

「ふうん……アンタが私の”プロデューサー”? ま、悪くないかな」
以下略 AAS



76: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:30:18.26 ID:BON9hvjh0
□ ―― □ ―― □




以下略 AAS



77: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:30:58.88 ID:BON9hvjh0
 その間俺は何をしていたかって言うと、ずっと“半人前”のプロデューサーだった。なにせ“持たざる者”ってのは変わらなかったから。

 だから後から入ってきたプロデューサーに頭を下げて、そしてこれでもかっていろんなことを教わった。それが俺の“持てる限り”だと思ったから。

 本好きで超過労働がちなプロデューサーからは様々な知識を。
以下略 AAS



78: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:31:25.51 ID:BON9hvjh0
 そうそう、事務員で思い出した。俺が夢を目指すきっかけとなったあの動画のアイドルは、なんと正直者なプロデューサーが手掛けたアイドルだったのだ。

「へえ、なんだか嬉しいな。こんなに優秀なプロデューサーが生まれるきっかけだなんて……あの時俺たちのやってたことは間違いじゃなかったんだなぁ。ねえ、ちひろさん?」

 しかもそのアイドルが引退後、事務員としてシンデレラガールズにやってきたのだから俺の興奮はすごかった。その時に向けられた渋谷さんからの冷たい視線で素に戻ったのは、今となると笑い話だ。
以下略 AAS



79: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:31:52.65 ID:BON9hvjh0
「――あっ、プロデューサー。ここに居たんだ」

 そんな感傷に浸る俺へ、掛けられる凛とした声。それに気づいて、俺は立ち上がる。そこに居たのは、あのトロフィーを持った、ドレス姿の渋谷さんの姿。

『渋谷さん、おめでとう。凄く綺麗だった』
以下略 AAS



80: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:33:00.13 ID:BON9hvjh0
「“これ以上、俺が重荷になるわけには行かない”……なんて、考えているんでしょ、プロデューサー?」

 どくん、と心臓が跳ねた。考えていたことをピタリ、と言い当てられたのだから当然だろうけれども。見やれば、少し不機嫌そうな渋谷さんの顔。

「あのさ、プロデューサー。私がここまでこれたのはプロデューサーがいたからだよ。なのに重荷なんてはず、ないじゃん」
以下略 AAS



81: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:33:27.61 ID:BON9hvjh0
「夢なんかじゃないよ。夢なんかじゃ」

 そして、渋谷さんは思い出したように、

「……そうだ、プロデューサー。あの約束、覚えてる?」
以下略 AAS



82: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:34:09.89 ID:BON9hvjh0
「“凛”……って、そう呼んでほしいな。いつまでも“渋谷さん”なんて、他人行儀だから」

 そんな、些細なお願い。思わず目を丸くする。そう言えば、確かに渋谷さんのことをそう呼んだことはない。ほかのプロデューサーは下の名前で呼んでいる人もいるのに。

『そんなのでいいのか?』
以下略 AAS



83: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:34:36.50 ID:BON9hvjh0
「プロデューサーは自分のことを“半人前”って言うけどさ」

『うん』

「私だって、何も知らなかった私から、ようやく“半人前”のアイドルにはなれたと思ってるんだ」
以下略 AAS



84: ◆v0AXk6cXY2[saga]
2019/08/18(日) 15:37:27.36 ID:BON9hvjh0
今回の更新で、この作品は完結となります。
またシリーズと言えるかどうかは分かりませんが、七人目の正直から始まった一連の作品群もこれで終わりです。
構想してから都合六年でようやく終わることが出来ました。
読んでいただけた方々には感謝しかありません。ありがとうございました。

以下略 AAS



85:名無しNIPPER[sage]
2019/08/18(日) 20:15:30.26 ID:HemI3qE0o
お疲れ様でした
四面楚歌から知ってシリーズ全部読んだよ
しかし強そうなCoプロだ…


86:名無しNIPPER[sage]
2019/08/18(日) 21:03:54.21 ID:TcQpB08bO
お疲れ様でした。
最後の1人は予想がついてたけどやっぱり作品で見たいし、また更新してくれて嬉しかったです。
3年待ったけど待ってて良かった、ありがとうございます。


87:名無しNIPPER
2019/08/19(月) 22:22:06.39 ID:2V09kfHe0
感動をありがとうございます。
7から読み直してきます。


88:名無しNIPPER[sage]
2019/08/23(金) 01:03:35.73 ID:XV4USbbX0

>>77の部分が最高だな


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