【シャニマス SS】P「プロポーズの暴発」夏葉「賞味期限切れの夢」
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41: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:44:49.16 ID:oj63shz20
 その時、俺はどんな顔をしていたのだろうか。怯えた表情を浮かべていたのだろうか。夏葉は俺の顔を覗き込んで、励ますように微笑み、断言した。

「私は今が幸せよ」
 虚ろ気な雰囲気とは逆に、力強い口調だった。

以下略 AAS



42: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:45:19.53 ID:oj63shz20
「取ってきたぞ」

 戻ってアルバムを夏葉に手渡し、スタンプケースはソファ前の机のはじに置いておく。夏葉は短く礼を言って、半身分ほどソファの右側に体をずらした。人間ひとりが余裕を持て座れるスペースが空いた。

 アルバムが机の上に広げて置かれる。隣り合って座っているので、向ける方向に苦慮しなくて済んだのはありがたかった。
以下略 AAS



43: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:45:49.11 ID:oj63shz20
「私にとっては素晴らしい日でも、誰かにとってはそうじゃない。それはわかっていたわ。当たり前のことだもの。だけど、その誰かがアナタだと思うと、なぜか悔しくて、哀しくなって……そう感じてしまった理由を考えると、もっとわからなくなってきて……」

 とうとうと夏葉が語る。語り口に合わせて、次第に彼女の目の焦点が合わなくなってきていた。

「……それで、考えがまとまらなくなって……寂しくなって……」
以下略 AAS



44: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:46:24.33 ID:oj63shz20
「俺は……」

 口ごもってしまった。言おうとした言葉を止めたせいか、他に何を言うべきなのかわからなくなっていた。自分が今、幸せなのかどうかも分からない。不幸ではないという後ろ向きな確信だけがある。

 思考は相変わらず胡乱なままで、だから、俺は思ったままに行動することにした。
以下略 AAS



45: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:46:55.79 ID:oj63shz20
「どこに押せばいい?」
「アナタと同じでいいわ」
「わかった。それじゃあ、目をつぶってくれ」
「ええ」

以下略 AAS



46: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:47:47.37 ID:oj63shz20
「い、いや……今のは……」

 喜ばれるはずがない。
 そう思って誤魔化そうとしたのに。
 誤魔化すより先に、夏葉がにこりと笑った。
以下略 AAS



47: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:48:50.47 ID:oj63shz20

   ◇

 ――二年前、俺は夏葉から何かを得た。

以下略 AAS



48: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:49:25.29 ID:oj63shz20
 俺の意識は二年前の記憶から立ち返り、現実の黒い海の砂浜に戻ってきていた。

 ……ふと、風が吹いた。
 突風だった。急な陸風だ。俺はぐらつき、言葉を噛み締めるように目を閉じていた夏葉もまた、その風に対応できなかった。夏葉の白い中折れ帽子が風にさらわれ宙を舞う。数秒ほど滞空して、帽子は海に落ちた。

以下略 AAS



49: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:50:25.11 ID:oj63shz20

 ――こんな、こんな浅瀬がなんだ。

 ――俺達は太平洋だって越えられたんだぞ。

以下略 AAS



50: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:50:59.98 ID:oj63shz20
「……っ!」
 今度こそ足がとられた。体のバランスが崩れて前につんのめる。顔が海水をなめた。

「プロデューサー!」
 夏葉が叫ぶ。
以下略 AAS



51: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:51:29.57 ID:oj63shz20
 岸に戻る。進むときにと比べて随分と楽に感じた。まだ引き波より寄せ波のほうが強い時間帯だ。波に逆らわずに動くだけでいい。

 辛いのは眼だった。顔に着いた海水と髪に跳ねた海水が滴ってきて、目に染み込もうとする。痛みで薄目を開けるのがせいぜいだった。

 それでも夏葉の場所はわかる。彼女の目の前に行き、帽子を手渡した。
以下略 AAS



52: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:51:58.21 ID:oj63shz20
 伝えたい想いは伝えられた。告げて、俺は夏葉の横を通り過ぎる。
 着替えを取りに車に戻ろうと思っていた。だけどそこで、もうひとつ言っておかなければいけないことがあるのを思い出した。

「婚約の、ことだけどさ」
 少しだけ声が震えた。
以下略 AAS



53: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:52:33.96 ID:oj63shz20
「待って」

 足を止める。ようやく目を開けられた。夏葉が海に入り、くるぶしまでを水にひたしていた。夏葉は屈んで海の中から何かを拾い上げる。
 俺の靴だ。波にもまれて戻ってきたらしい。それを受け取るために夏葉の方に歩き出す。

以下略 AAS



54: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:53:09.95 ID:oj63shz20

 ……胸が、詰まる。

 夏葉のその言葉と同時に、丁度よく風が吹き抜けたりはしなかった。高台の上から教会から鐘の音が聞こえたりもしない。そんなものがなくとも、俺には十分に特別に思えた。

以下略 AAS



55: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:53:35.82 ID:oj63shz20
 それからどのくらい語らっていたのだろう。気がつけば水平線に陽が沈もうとしていた。

「そろそろ行きましょうか。色々と決めないといけないわよね。住むところとか、結婚式場のことだとか……できればあの教会がいいのだけれど」
 
 夏葉は高台を見上げると踵を返し、砂浜をふらつくことなく歩いていく。ダークサーモンの髪が、海風になびいて揺れた。そこで俺は、夏葉の海に来るたび、最後には同じ光景を見ていることに思い至った。海に向かって「私は有栖川夏葉」と海に叫んだ、かつての夏葉の姿が脳裏をかすめる。
以下略 AAS



56: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:54:21.60 ID:oj63shz20
 時は巡る。

「ブ、ブライダルフェアって、こんなにやってるのか!?」
「都内だけでも式場はたくさんあるもの。第一候補はあの場所としても、色々見て回って損はないはずよ」

以下略 AAS



57: ◆/rHuADhITI[saga]
2019/08/18(日) 02:54:57.39 ID:oj63shz20
 ――たぷりと、水の溢れる音がした。

 ブライダルフェアに向かう途中の道、男は水音に立ち止まった。不可思議だった。あたりを見回しても大きな水場はない。あるのは焼けたコンクリート道路と、子供が遊びまわっている公園だけだ。男は首をひねる。

 男の数歩先を歩く女性が振り向いた。男の妻となる女性だ。楽し気に「置いて行っちゃうわよ」とはしゃぐ女性に、男は右手をあげて応える。そして歩き出した。
以下略 AAS



58: ◆/rHuADhITI[sage saga]
2019/08/18(日) 02:56:01.69 ID:oj63shz20

終わりです。お目汚し失礼しました。
二日遅れとなりましたが夏葉さん誕生日おめでとうございます


59:名無しNIPPER[sage]
2019/08/18(日) 03:59:37.59 ID:4OdXFmUzo
うーん最高



60:名無しNIPPER[sage]
2019/08/22(木) 18:35:16.55 ID:Y/UeifDZO
素晴らしかったです
文章に惹きこまれました


61:名無しNIPPER[sage]
2019/08/23(金) 06:24:53.06 ID:vS+E1sv5o
素晴らしかった...


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