タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part7
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30:名無しNIPPER[sage saga]
2019/12/03(火) 22:54:44.83 ID:OhJeNQiF0
>>15「罪喰イ」

 拘置所の壁は鼠色で取りつく島もなく、一つしかない窓には鉄格子がはまり薄ぼんやりとした光しか入ってこない。

 送検されてからずいぶん経つが、この広い部屋にただ一人ぶち込まれ、退屈しのぎできるものもなくただ格子の隙間を流れる雲ばかり見ている。

 鼠がたまに出入りをして哀れむような眼で見つめてくるだけでもいくらか違ったかもしれない。その時には彼を同じ空間に生きる仲間として、一種の連帯感を抱いて溌溂としていたかもしれないのだ。

 だが実際にはそこには何もあらず、閑散としたコンクリートが広がっているだけである。

 看守がやってきて扉の前に立ち止まりったかと思うとカチリと音がして、
「立て。出ろ。そして付いてこい」

 僕はそれに従うことにした。



「これからどこへ行くんです」と尋ねたのはこれで六回目だ。
しかしいずれにしても看守は反応を示さず、ひたすらに見た目の変わらない殺風景な廊下を下り続けた。僕は不安になった。

「本当に僕をどこに連れて行くんです。取り調べですか? しかしそれならばそういうことだと仰って然るべきでしょう。それなのに、なぜ具体的な予定を伝えてくれないのですか。これはとても奇妙なことだ。厳密には僕はまだ罪のない、真っ新な無辜の民であるはず、だが何も知らされず、不安なまま曳かれて行かれるだけの道理はどこに? 答えてください!」

看守はそれを無視してしばらく行くと、いくらか妥協したように息を吐いて肩の力を抜いた。そこはまだ殺風景な廊下で、終わりも見えてこないところである。彼は手首に巻いた時計を見て、そして、
「お前にはもう用はないんだよ」と言った。

 体は微動だにせず、背後に立っている僕には彼が筋肉を動かして言葉を発したことも信じられない。それくらい恐ろしく平板で、感情のない声だった。

「用がないって何です」
「すぐ終わらせる」彼はしゅる、とごく自然に、川底から小石を掬い取るみたいに顔を剥がした。

 いや、取ったという方が正確かもしれない。それを見て僕は彼は果たしてスカーフをしていただろうかと錯覚したくらいなのである。

 彼は嘯くように、
「いくら推定無罪だといってもな、世間は誰も信じちゃくれないんだよ。今回はお前がやったのは確かだけどな。そうだろ?」
「……」
「たまに本当に怪しいのもあるけどな、大概は正しい判断が下される。有罪にできなきゃお前はとっくに保釈されているだろう」
 黙って続きを待つ。
「そこでなんだけどな、俺はある特権を得ている。無作為の有罪が決定的な拘留者に関する一切が俺の掌の上にあるわけだ。だからな」
 看守は振り向いた。
「グッド・バイ」
 後にはべたついた臭い液体だけが残り、それは駆けつけた清掃員たちが手際よく洗浄して元通りにされ、塩化ビニルの床がぬめるように光っている。



>>29 ありがとうございます。現実においてもかなりの励みになります。


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