渋谷凛「これは、そういう、必要な遠回り」
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13: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2019/12/08(日) 21:06:34.58 ID:clFucneV0

「散歩。行こっか」

散歩、というワードに反応してハナコは私のあとについてくる。

とてとて小さな歩幅の足を、全力で回転させて私を追いかけるハナコを従えて玄関に到着する。

スニーカーを履き、靴箱にかけてあるリードをハナコの首輪につけて、お散歩の準備は万全だ。

その証拠にハナコは弾けるような勢いで、花屋の店内へと躍り出た。

軒先で開店準備をしていた父は、猛烈な勢いで迫りくるハナコに気が付いて軽い驚きの声を漏らしたあとで、私に「おはよう」と言った。

「おはよ。散歩行ってくるね」

「ああ、気を付けて」

「うん。行ってきます」

いつもどおりの、簡単なやりとりを経て通りに出る。昨日の夜の寒さが嘘みたいに、暖かだった。

右の植え込みに行ったと思えば左の電柱へ駆け出して、と大忙しなハナコの歩調に合わせてのんびり歩いていると昨日あった事件なんて夢だったのかもしれないという気さえしてくる。

もちろんそんなわけはなくて、私の部屋の机上にはプロデューサーを名乗るあの男から手渡された名刺が置いてあるし、ローファーで全力で駆けた反動か、じんわりとした疲労がまだ足に残っているのだけれど。

でも、そう錯覚するくらい、穏やかな空気と時間が流れていた。

これは、昨日あのまま脅されている人を見過ごしていたら訪れなかった時間で、褒められたことではないのかもしれないけれど、それでも私は行動してよかったのだ、と改めて思うのだった。

さて、事情を話すと言った手前、母には昨日にあった出来事をある程度話さなければならない。

どこまでを伝えるべきか思案しているうちに、いつもの散歩コースをぐるりと回りきって、自宅である花屋の前に戻ってきていた。



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