26:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:52:41.36 ID:O0jAO63X0
 桃子「やれやれ。ようやく村人どものお出ましか」 
  
 エミリー「さあ、これだけの数の人がいて逃げられると思わないことです。早く育吾郎さまを放しなさい!」 
  
 桃子「五月蠅いやつめ。異人の娘か。儂に楯突くのなら好きにするがいい。だがこの腰抜けの村人どもが貴様の味方をするかのう?」 
27:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:53:12.12 ID:O0jAO63X0
 エミリー「ひなたさんと育吾郎さまはお友達なんですよね。このまま黙って見ているだけでいいのですか」 
  
 ひなた「エミリーちゃん……」 
  
 村人G「ひなた、わかっておるな?」 
28:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:53:50.23 ID:O0jAO63X0
 エミリー「……ひなたさん、すぐにこの子たちの傷の手当てを」 
  
 ひなた「う、うん……」 
  
 チャッ 
29:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:54:28.07 ID:O0jAO63X0
 ――茉莉城 
  
  
 まつり「ふむ……育吾郎が山に棲む鬼に連れ去られ、三日後には喰われてしまうと……」 
  
30:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:55:08.22 ID:O0jAO63X0
 昔々のことです。小さな鬼がひとりで野山を歩いておりました。 
  
 この鬼は地獄で仲間ともめ事を起こしたため、住処を追われ、たったひとり地上をあてもなく彷徨っていたのです。 
  
 ひとりぼっちの鬼はお腹を空かせていました。獲物である人間を食べなければ、餓死してしまいます。 
31:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:55:40.97 ID:O0jAO63X0
 不思議がって尋ねてきた男の子に、鬼は答えました。 
  
 「儂は飯も水も口に入れん。その代わり、お前が欲しい。このままお前さんが帰ってしまえば、儂はここでひとりぼっちじゃ」 
  
 「のうお前さん、儂の婿にならんか? さすればわしは見返りに、そこに見える三角池の水を真っ赤に染めて差し出そう」 
32:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:56:11.23 ID:O0jAO63X0
 しかしそれでも鬼は生きているのでだんだんお腹が空いてきます。だんだん寂しくなってきます。 
  
 けれどもこの村にはいつの時代も、優しい男の子がいます。彼らが婿に来てくれるから、鬼は寂しくないのです。 
  
 だから鬼は感謝の思いを込めて村人たちに真っ赤な池の水を贈るのです。 
33:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:56:40.33 ID:O0jAO63X0
 エミリー「……なんですか、このお話は」 
  
 まつり「鬼に息子を食われた母親がいつしか創作し、次の標的の母親へと伝え受け継がれていったという物語なのじゃ。他の藩でもお伽噺として親しまれているそうなのじゃ」 
  
 まつり「実際村には恵みがもたらされておる。心優しき男の子は村を救った英雄ともいえよう。そう捉えれば、この物語もある意味では的を射ているのかもしれんのじゃ」 
34:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:57:11.23 ID:O0jAO63X0
 まつり「ふむ。エミリーよ。余が見込んだとおりじゃった。大和撫子とはかくあるべきという姿、見せてもらったのじゃ」 
  
 まつり「これからの時代、女性たちがそなたのように強く凜々しく美しく輝けるよう、余も大名として精進せねばならぬのじゃ」 
  
 まつり「エミリーよ、そなたはまことに天晴なのじゃ!」 
35:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:57:47.50 ID:O0jAO63X0
 ――翌朝 
  
  
 紬「あなたがエミリーさんですね。お話は伺っております」 
  
36:名無しNIPPER[saga]
2020/03/29(日) 16:58:19.91 ID:O0jAO63X0
 エミリー「それでは、まずどのような修行から入ればよろしいでしょうか」 
  
 紬「いいえ。厳しい修行は必要ありません。そもそも鬼とは地獄の住人。私のような祈祷師であっても単独で挑めば勝ち目はないでしょう」 
  
 エミリー「そ、そんな!」 
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