3:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 19:59:45.88 ID:33Pc5UOzO
 「お前、ちゃんと胡蝶に思ったこと伝えてるか?」 
  
  同僚の宇髄天元に食事に誘われた。鮭大根のある店を探すと言って俺に気を使う宇髄に断りをいれる。 
  
 「大丈夫だ。鮭大根はなくてもいい」 
4:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:00:24.13 ID:33Pc5UOzO
 「なんでだよ、お前鮭大根好きだろ?前は毎日食ってたじゃねぇか」 
 「あぁ、確かにな…だが…もうその必要はない」 
 「はぁ?どういうことだよ?」 
  
  納得いかないとばかりに宇髄が理由を尋ねるので、正直に答える。 
5:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:01:43.51 ID:33Pc5UOzO
 「鮭大根は胡蝶が作ってくれるのが一番美味い」 
  
  そう言うと、何故か宇髄は目を見開いた。まるで何かに驚いているようだった。その後、ため息をついて諦めたような表情に変わり、冒頭のセリフを口にしたのだ。 
  
6:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:02:21.11 ID:33Pc5UOzO
 「お前、ちゃんと胡蝶に思ったこと伝えてるか?」 
 「…どういう意味だ?」 
 「どういう意味もクソもねえよ。そのままだ。お前のことだから、胡蝶の鮭大根が美味いことどころか最近は店で鮭大根食ってないことすら言ってないだろ?」 
 「…」 
 「図星かよ…」 
7:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:03:07.63 ID:33Pc5UOzO
 「お前は本当…わかってねえな…いいか?女ってのはな、ちゃんと言葉で伝えてほしいものなんだよ!」 
 「いや、胡蝶にはきっと伝わっている」 
  
  なんせ前世から、口下手な自分のことを散々フォローしてくれていたのだ。現世に生まれ変わった今でも、彼女は自分のことを理解してくれている。 
8:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:03:44.34 ID:33Pc5UOzO
 「そういうことじゃねぇんだよ。いいか?全く同じ人間なんていないんだ。口で言わなきゃ伝わるわけねぇだろ?」 
 「…確かに」 
 「それによぉ、仮に伝わっていたとしても女っつうのは言ってほしいもんなんだよ」 
 「…そういうものなのか」 
  
9:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:05:28.97 ID:33Pc5UOzO
 「そりゃあお前らのことだから、普段の話の流れで察してるとは思うぜ?けどな、その敢えて言わなかった一言が大事に思う瞬間があるんだよ」 
 「…なるほどな」 
 「鮭大根が美味いことだって、伝えてんのか?少なくとも俺はお前からそんな台詞が聞こえて驚くくらいには、言ってなかったと思うぜ?」 
 「うっ…」 
  
10:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:06:10.86 ID:33Pc5UOzO
 「『思ってたんだ』じゃ伝わらないんだぜ?そんなこと、お前ならわかっているはずだろう?」 
 「…」 
  
  返す言葉もない。前世では結局死に別れてしまった。前世ほどではないかもしれないが、今世だって何が起こるかわからない。明日一緒にいられる可能性は100%ではないのだ。 
11:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:06:52.94 ID:33Pc5UOzO
 「俺の気持ち…か…」 
  
  仕事を終えた帰り道。義勇は一人呟く。思えば生徒として再会した時から、しのぶには多くの我慢をさせてしまっていた。教師と生徒だからと、付き合うのは卒業するまで待たせてしまったし、付き合ってからも口下手な義勇に合わせてくれるのはしのぶの方だ。 
  元々溜め込みやすい性格で、油断をするとすぐに自分を犠牲にしようとする。そんな彼女のことを幸せにしたかった。前世から、自分のことより他人のことを大切にする彼女のことを何より大事にしたかった。それなのに、どうして鮭大根が美味いくらいのことを言ってやれなかったのだろうか。 
12:名無しNIPPER
2020/04/05(日) 20:08:00.10 ID:33Pc5UOzO
 「いや…違うな…」 
  
  そうだ、鮭大根どころではない。ずっとずっと、しのぶには世話になりっぱなしだ。口下手を良いことに甘えてきてしまった。もっともっと言わなければいけないことがあるのではないか。 
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