樋口円香「天国とは程遠く、地獄と呼ぶには温かで」
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7: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2020/04/13(月) 20:33:57.35 ID:HUVzNnIg0
「大丈夫だよ、円香なら。誰より頑張ってきたんだ。保証する」
「相変わらず臆面もなく歯の浮くようなことを言うんですね」
「それが仕事だからな」
「……大層なお仕事ですね。だいたい、誰より頑張ってる、だなんて誰がどうやって保証するんですか」
「俺だよ。俺がそう思ったから、俺が保証する」
「………………」
自信たっぷりにそう言ってのける彼に、何も言い返すことができず、押し黙ってしまう。
やっとのことで絞り出せたのは「そうですか」という情けないものだった。
「……ここ、騒がしかったら外の空気吸ってきてもいいからな。何かあれば呼びに行くし」
「余計な気を回してもらわなくて結構です」
「そうか? 遠慮せずに落ち着ける場所にいていいんだぞ?」
「はい。……ですから、ここで」
「…………なるほど」
「そのにやついた顔をやめてください。他意はないですから」
「……帰り、ケーキでも食って帰ろうか」
「結構です」
「相変わらず、手厳しいなぁ……」
控え室のドアにノックの音が飛び込んで、間髪入れずに「十六番から二十番までの方お入りください」と扉の向こうから呼ばれた。
「出番、みたいですね」
「ああ、いってらっしゃい。信じてるよ」
「月並みな激励、ありがとうございます」
「あはは。そうだな、月並みだ。でも、世界の誰より円香を信じてる」
「………………それくらい、知ってます」
「うん」
「では、ミスター・ビリーバー。せいぜいそこで両手を合わせて私が戻るまで祈っていたらどうですか。……そうしたら、帰りにケーキに連れていかれてあげるのも、やぶさかではありませんので」
「……よし、任せてくれ。祈るのは大得意だ」
二度目となるプロデューサーの「行ってらっしゃい」を背中で聞いて、控え室を出る。
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