11:名無しNIPPER
2020/04/29(水) 22:12:27.53 ID:GKexH31W0
  レッスンが終わり、事務室に戻って書類仕事を始めてから数十分が経つと、レッスン着から着替え終えた彼女が戻ってきた。 
  
 『……ただいま』 
  
 「おう、戻ったか。レッスン見てたぞ。ビジュアルレッスンもダンスレッスンもよかったじゃないか。○○と比べても遜色なかった。これならオーディションも合格狙えるはずだ!」 
  
 『……た?』 
  
 「悪い、聞こえなかった。もう一回頼む」 
  
 『ボーカルレッスンはどうだったかって聞いてるのよ!』 
  
 「えっと、ボーカルレッスンはだな……、その……」 
  
 『そうよね! あんたには分かるわけないわよね! だって聞こえないんだもん!』 
  
 『あんたには分からないわよ! ○○の歌がどれだけ凄かったかなんて! 音感も、声量も、表現力も、全部桁外れ! 何が“○○と比べても遜色ない”よ! なんにも分かってないくせに分かったようなこと言わないで!』 
  
 「いや、確かに歌に関しては何も分からないけど、それ以外ならお前も同じくらい凄かったよ」 
  
 『あの子、デビューしてから1年しか経ってないのよ! 私は8年! 8年レッスンしてきてるのに、この前入ってきたばっかの新入りと同じくらいってなんなの! なんで得意だと思ってたビジュアルレッスンでも勝てないのよ!?』 
  
 「……」 
  
 『私、もう世間ではアラサーって呼ばれる年齢なの! そんな年になるまで一生懸命頑張ってきたのに若い子に一瞬で抜かされる気持ち、あんたに分かる!?』 
  
 「……」 
  
 『なんか言いなさいよ! あんたっていつもそう! 大事な時は黙り込んで! アイドルを励ますのもプロデューサーの仕事でしょ!?』 
  
 『アイドルなんてやらなければよかった! あの時にスカウトされて、その気になっちゃって、気づいたらこんな年になってて! もう後戻りなんかできないの! 私の時間返して! 私の人生ぶち壊しにしたんだから責任取ってよ!』 
  
  ああ、まただ。また何も言えなかった。僕は彼女に何をしてあげればいいんだ。いつまでも秘密にしてないで、そのメモ帳譲ってくれてもいいじゃないか。 
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