黒埼ちとせ「メメント・ウィッシュ」
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22:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 19:59:59.33 ID:fM9nM/xA0
 月明かりに照らされた病室は、ドラマで見るよりもずっと静かで、背筋に粟立つような怖さがあった。

『……私は祈りました。願いました。お前も……お嬢さまに仕える者であるなら、そうしてはいかがですか』

 一頻り泣いた千夜を見送るときに聞いた言葉を思い返す。そういえば仕事の事後処理やら何やらで、まだ一度しかちとせには面会していなかったし、その時間だって短いものだった。
 芸能人や政治家が利用する病院なだけあって審査は厳格だったが、それでもちとせの病室に入る許可は下ろしてくれた辺り、ここにも何か根回しがあったのだろうかと勘ぐってしまう自分に苦笑しながら訪れた部屋は、前に来たときと変わらず、真っ白で、透明だった。
 女の子の寝顔を覗き込むのは道義的にどうなんだろうと、自分でもそう思ったけれど、それでも心配が先に立って見てしまったちとせの顔は、日が昇れば自然に目を開けるんじゃないかと思ってしまうほどに安らかだ。
 それでも今、ちとせが意識不明で、容態こそ安定していても、いつまた生死の淵を彷徨うことになるのかわからないという事実に変わりはない。点滴からぽたり、と雫がこぼれ落ちていく様を見送りながら、俺はただそこに思いを馳せる。


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