黒埼ちとせ「メメント・ウィッシュ」
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26:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:03:54.70 ID:fM9nM/xA0
 言い訳をするつもりはない。だけど、死というのはそれほどまでに重いものなのだ。
 俺は神頼みこそよくするが、敬虔な信徒じゃない。それも特定の神様じゃなくて、八百万もいるんだから一人ぐらい叶えてくれと、そういう軽い気持ちでのものだ。
 だから、死んだら人は天国に行くなんて、とてもじゃないが信じられない。人だけじゃない。ありとあらゆるこの世を去ったもの全て、空の上で幸せに暮らしていますなんてことがあり得るだろうか。
 もしあり得たとしても、地上に遺された俺たちにはそれを確かめる術がない。だったらそんなのは、ないのと同じじゃないか。死んだら人は、猫は、物は、ありとあらゆる全ては、消えてなくなってしまうんだ。

「……初めて宣材写真を撮ったとき、君はカメラマンを焚き付けるようなことを言っていた。それも、覚えてるよ」

 正直なところ、新人アイドルの宣材写真を撮れ、というのはカメラマンにとってあまり興が乗らないことである、というのは現場にいる誰もが何となくわかっていた。
 ただ、わざわざ誰もそれを口に出したりはしない。とうのカメラマンでさえもだ。

 それもそうだろう。そんな何の益体もない事をわざわざ口に出したって、現場の士気が下がるだけだし、撮影を担当している人間がそんなことを言った日には、次の日からスケジュール帳が真っ白になってしまうことが確定しているのだから。
 それでも、あえてちとせは挑発するようにカメラマンを務めていた青年に言い放った。興が乗らない仕事なのではないか、本当はもっと、歴史に、他の誰でもない自分の名を残すような一枚を撮りたいのではないかと。
 普通なら逆上しそうな物言いだ。なぜなら、それは今お前のやっている仕事は取るに足らない、つまらないものなのだとわざわざ突きつけているのに等しい。世が世ならその場で白い手袋を投げつけられても文句は言えないだろう。


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