黒埼ちとせ「メメント・ウィッシュ」
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28:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/11(木) 20:06:09.75 ID:fM9nM/xA0
「君には多分大きな借りがある。千夜のことだ。彼女と打ち解けるのは色々と苦労したけど、多分ちとせがいなかったら俺は匙を投げてたんじゃないかって思うよ」

 正直にいうと、俺は白雪千夜が苦手だった。
 初対面の印象が互いに険悪なものだったことを引きずっている節がないとはいわない。ただ、やっぱり決定的なのは、彼女がいつも自分の存在について「価値」という換算可能な概念で語っていることだろう。それは俺にとって、どうしても許しがたいことだったからだ。
 だが、蓋を開けてみれば千夜のそれは価値観じゃなくて呪いだった。そして、解かれなければいけないものだった。
 ――ちとせ。
 君がそれを知らないはずはないだろう。そっと、穏やかな寝顔に伸ばしかけた手を止めて、唇を硬く引き結ぶ。

「だけど、君について、一つだけ許せないことがある」

 言うべきか、言うべきじゃないか。結論より先に、言葉が走っていた。散らかった頭の中は、もう随分クリアになっている。あと少しで何かに辿り着きそうな、喉元まで答えが出かかっているような引っかかりが、渦を巻いて言葉に変わっていく。

「君は、自分の余命が幾ばくもないことを知っていた……だから、俺と千夜を引き合わせた。そうだろう。果たして目論見は上手くいった。千夜は、あいつは変わってきている。確実に、今でも苦手な部分がないとはいわない。だが、俺もあいつについての考えを改めている」

 まるで、初めからそうなることが決まっていたかのように。そして。

「君は……千夜に、君が生きるはずだった幸せな時間を、代わりに生きてもらおうとしていたんじゃないか? そしてその後見人として俺を選んで、お人好しが一つ屋根の下に集まった事務所を新しい家にするつもりだった。違うか?」

 ああ、そうだ。仮に今ちとせが目覚めたって、答え合わせはできないかもしれない。だが、何かがかちりと音を立てて結びついた、そういう確信が脳裏を閃いて弾ける感覚があった。


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