5:名無しNIPPER[sage saga]
2020/06/26(金) 00:23:27.93 ID:pCrOcsWZO
「橙子さんは意外と臆病なんですね」
「黒桐。大人はみんな臆病者なんだ。君たち若者よりも失う悲しみを知っているからね。だから歳を重ねるごとにつまらない存在へと成り果てる。無論、私は例外だがね」
別に誇るでもなくトウコは自らを例外だと言う。それが、この女が逸脱している証拠だ。
「私はね、黒桐。そんなつまらない存在になりたくなくて、自分の代わりを作ったのさ」
蒼崎橙子は稀代の人形師。所謂天才である。
その腕前はついに『自分と寸分違わぬ人形』を作り出す域まで達した。完全なる贋作。
本物と見分けのつかないこの女は間違いなく偽物で、本物よりも本物らしく生きている。
「後悔とかしてないんですか?」
「今のところは平気かな。つまりそれはこの先も平気だということだ。私は私だからね」
ある意味、究極のナルシストなのだろう。
誰にだって自分自身に不満は存在していて、もしも人形を作るならばそれを修正せずにいられぬ筈で、だんだんと自分を失っていく。
なのにトウコはありのままの自分をそっくりそのまま作り、自分として生活している。
そんなこと、オレには絶対に無理だと思う。
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