21:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:30:08.69 ID:W5lmC8VA0
私の身勝手な行動が今に始まった話でないことは、千夜ちゃんも十分に分かっている。
だから、きっとアレは、今の忠告が馬耳東風に終わることを悟ったため息。
「ごめんね、千夜ちゃん」
22:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:31:04.38 ID:W5lmC8VA0
あの頃と違って、千夜ちゃんはしっかりと自分の人生を歩んでいる。
正しく順風満帆と言って良い。
黒埼の従者としての使命から解き放たれて、自分の足でしっかりと。
23:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:34:31.70 ID:W5lmC8VA0
その日以来、私と藍子ちゃんは友達になった。
お互いに示し合わすわけでもなく、公園で散歩している時に度々会っては、他愛の無い話に花を咲かせるのだ。
「撮り方、と言われても、うーん……シャッターを押すだけとしか」
24:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:36:25.18 ID:W5lmC8VA0
最近では、スマホでもデジカメ並みに質の高い写真を撮れるようになったという。
品質や利便性を考えれば、写真なんてそっちを採用する方がいい気がする。
だのに、あえてこのチャチなカメラに楽しみを見出すあたり、藍子ちゃんもなかなかのロマンチストだね。
25:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:38:32.63 ID:W5lmC8VA0
「あぁ、こういう所もあったんだねぇ」
「良かったら膝枕、しましょうか?」
「いいの? ふふ、助かる」
26:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:39:42.72 ID:W5lmC8VA0
「えっ?」
どれくらい時間が経ったのか分からない。
27:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:41:51.35 ID:W5lmC8VA0
あぁ――そうか。
私は合点した。
時計を見てみると、時間にしてせいぜい5分程度。
藍子ちゃんの膝に頭を預けてまどろむ間際、私は確かに「幸せ」と言っていた気がする。
28:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:43:33.63 ID:W5lmC8VA0
私にとっては、あまりピンとこない話。
この弱い身体でも、求めたものが手に入らないわけではなかった。
千夜ちゃんだけでなく、誰かにお願いをすれば断られることは無かったし、良い思いもさせてもらえた。
29:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:50:04.21 ID:W5lmC8VA0
言われた通りに目を向けると、遠くの方に銅像らしきモニュメントがあったのを見つけた。
天に向かって手を伸ばす裸婦像。
「この間、通りすがりのおばちゃんから聞いたんですが……あれ、一度作り直されたみたいなんです」
「作り直された?」
30:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:51:45.31 ID:W5lmC8VA0
「……藍子ちゃん?」
藍子ちゃんは視線を落とし、手元にある芝生を撫でた。
「人も街も、信じられない速さでどんどん変わっていく……。
31:名無しNIPPER[saga]
2020/06/26(金) 17:54:49.88 ID:W5lmC8VA0
「…………」
かつての私にも、思い描いたものが、きっと無いわけでは無かったと思う。
でも、諦めるのは楽だった。
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