19: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/08/02(日) 08:05:52.63 ID:dze2zfkn0
【4】
夜が更け、周りを照らすものは車のヘッドライトだけとなっていた。
周囲を鬱蒼(うっそう)とした森に囲まれた廃病院は、星々のか細い光に縁取られて異様な存在感を放っていた。
今宵は新月。
いつもなら心を明るく照らしてくれる太陽も月も、今日は地球の裏側でお留守番。
「エ〜‼ もっとおっきなライト持っていこうヨ〜‼ こんなんじゃ全然見えないヨ〜⁉」
今の彼女たちを守るものは一握りの懐中電灯と、小さなヘッドライトのみ。
不満を漏らすエレナとは裏腹に、貴音は討ち入り前の武将のように覚悟を決めた表情を見せていた。
「えーっと、携帯は圏外だろうから無線繋ぎっぱなしにしておくからな。あとハンディカムもあるけど、ヘッドライト横にもあるから余裕があるときだけで良い…ん、なんだ貴音」
貴音は真顔でプロデューサーの目を真っ直ぐ見ながら、ゆっくりと頭(かぶり)を振った。
どうやら覚悟は決まっていないようだった。
十七歳と十八歳の見た目も麗しくスタイルも抜群のアイドルが男性にしがみ付いている。
プロデューサーは慣れた様子で「ホラホラ最初はカメラマンさんに撮ってもらうから」とあしらっている。
病院に突入する前のインタビューを担当していた三十六歳の男性カメラマンはもし死んだら世界の不平等さを嘆く幽霊として化けて出ようと心に決めた。
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