22: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/07(金) 22:00:54.58 ID:S0Anv1g5O
  
  
 「深き地の中より生まれ出る者 
 悠久の時を生き続ける者 
 汝に感謝と我が願いを伝えん 
 今より2刻、それより1刻半の間に汝が見たものを映せ……」 
  
  
 ぼわっと水晶玉の表面が歪む。そこには、上から見た書斎が映し出されていた。 
  
 「うん、私が出ていく所が見えるわね。『再生』、早められる?」 
  
 「はい。まだ『倍速』程度ですけど」 
  
 「本当は5倍速ぐらいまで行ってほしいのだけどね。そこはこれからの課題かしら」 
  
 「再生」を始めて20分ほどすると、窓から何かが入ってきた。 
  
 「……これは」 
  
 「猫、ねぇ。それも黒猫。最近研究棟に住み着いたって子かしら」 
  
 それは顔をあげると、スンスンと鼻を鳴らす様子を見せた。まるで犬みたいだ。 
 そして、一直線に戸棚に向かうと……器用に戸棚を開けてマロングラッセを咥えると、そのまま窓から去ってしまった。 
  
 「……まさか猫だなんて。というか、こんな器用な猫っているものなんですか?」 
  
 「あらら、『偽猫(デミキャット)』かもしれないわよ?最近、愛玩用に飼っている人多いらしいし。 
 あれなら子供ぐらいの知能があるから、不思議じゃないわ」 
  
 「偽猫なら尻尾は2本のはずですが、あの猫は……」 
  
 「1本だけだったわね。ここの魔道士が手を加えたのかもしれないわ」 
  
 アリス教授はクスクス笑っている。確かに、ここオルランドゥ魔術都市には変な魔術士がたくさんいる。 
 偽猫に普通の猫の真似をさせる人がいてもおかしくはない、か。 
  
 「まあ仕方ないから、お茶の時間にしましょう? 
 お湯、もう一度沸かし直しておいてね」 
  
 私は苦笑しながら厨房に戻る。研究の合間に飲むトリスの緑茶は格別なのだった。 
  
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