23: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/07(金) 22:01:56.43 ID:S0Anv1g5O
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 「にしても、大分こなれてきたわね。今までにない魔法であるのは確かだわ」 
  
 ズズッ、とアリス教授がお茶を啜った。私はマロングラッセの代わりに、エリザベートの故郷の土産「セベー」を齧る。少ししょっぱいけど、トリス茶にはそれがよく合う。 
  
 「ありがとうございます。でも、まだまだ課題は山積です。『再生速度』はまだ上げなきゃいけないですし、それに……」 
  
 「もっと昔のことを精霊を通して映し出すのは、マナが全然足りてない。引いてはマナの効果がまだ非効率であるという証明……でしょ?」 
  
 私は小さく頷いた。 
  
 「ええ。さすがですね。精霊魔法なら教授の右に出る人はいませんけど」 
  
 「あらあら、私には貴女の発想はなかったわ。精霊の『視覚』を再現することで、その場所で何があったかを映し出す。 
 あなたの『追憶(リコール)』は、唯一無二のものよ。もっと自信を持ちなさいな。 
 それに、『思い出させる』んでしょう?10年前に、何があったか」 
  
 「……はい」 
  
 「貴女の記憶は、誰かによって消されている。それを取り戻すことは、私にすら無理だったわ。 
 どうして貴女の記憶が消されたのかは分からない。何か、貴女が知ってはいけない真実を隠すためかもしれない。 
 でも、貴女の『真実を知りたい』と思う気持ちは止められないわ。だから、私は貴女に精霊魔法を教えることにしたの。そして、それはもうすぐ実を結ぶわ」 
  
 教授が私に微笑みかけた。 
  
 「プルミエール・レミュー。貴女の魔法は、きっと多くの人を救うでしょう。学会が終わったら、各国から召し抱えの文が届くはず。そのために、もう少し頑張らなくちゃね」 
  
 「はい!それも、教授のおかげです」 
  
 「やあねぇ、御世辞を言っても何も出ないわよ? 
 ……ところで、もし文が来たらどこに行くつもり?」 
  
 「え?……それは、多分……アングヴィラじゃないかと。私、あそこで育ちましたし」 
  
 窓から風が吹き込んできた。教授は少し険しい顔になって、開いたままだった窓を閉める。 
  
 「……あそこはやめときなさい」 
  
 「えっ……何でですか?」 
  
 私は困惑した。完全にアングヴィラに戻るつもりでいたからだ。 
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