24: ◆Try7rHwMFw[saga]
2020/08/07(金) 22:02:38.97 ID:S0Anv1g5O
 私の生まれは大陸北東部のテルモン皇国だけど、叔父夫婦の死の後は南西のアングヴィラ王国で育った。 
 記憶を失ったままの私を、たまたまテルモンを訪問していたクリス・トンプソン宰相が拾ったのだ。 
 そして、私は彼の庇護の元育てられた。オルランドゥ魔術学院に入れたのも、彼の口利きがあってのことだ。 
 私に父の記憶はほとんどない。だけど、トンプソン宰相は……私にとっては、親も同然だ。 
  
 だからこそ、アングヴィラに戻らないという選択肢はなかった。私の「追憶」で、彼の恩に報いる。そのつもりだった。 
  
 だから、教授の言ったことを私は理解できなかった。困惑したままの私に、教授は首を振る。 
  
 「いいからやめておきなさい。貴女のためよ」 
  
 私は思わずテーブルを叩いた。ガチャンとグラスが揺れ、溢れた緑茶がテーブルクロスを濡らす。 
  
  
 「どうしてなんですかっっ!!!」 
  
  
 教授は無言のまま、天井を見上げた。 
  
 「いつかは伝えないといけないけど、私にはまだ確信がない。もう少し、待ってちょうだい。 
 学会が終わり、今は秘している貴女の魔法が世に知られるようになったら……きっと理由を教えられると思う」 
  
 「……一体何を」 
  
 「真実を知ることは、時に残酷なのよ。……仕官の件なら、もしモリブスから話が来たら通してあげる。古い友人がいるの」 
  
 教授は溢れたお茶を布巾で拭き取った。 
  
 「お茶、淹れ直すわね」 
  
 教授があんな頭ごなしに言うなんて初めてだ。……でも、その時の私には、彼女の言うことが全く分からなかった。 
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