7: ◆yufVJNsZ3s
2020/08/15(土) 10:57:08.04 ID:NLZLtzJb0
「なんのことだかな」
なので今度のこれはまさしくすっとぼけ。大井は手のひら返しにも等しい俺の返答を聴いて、小さく溜息をつき、冷めた目で視線を送ってくる。
何かをさらに言おうとした気配を察知して、俺は缶ビールをもう一本取り出した。空き缶はきちんと捨てて。
「北上たち待ってんじゃねぇのか」
現在時刻は二三時三〇分。もう少しで日付が変わる。あまり長居させてもよくないだろう。
大井は引き続き何かを言おうか、それとも、と逡巡していたようだが、時間を告げられて大人しく立ち上がった。
そうだ、それでいいのだ、と俺は思った。
人間、いつ死ぬかはわからない。最前線で戦う軍人ともなればなおさらだ。であれば、自らの人生に悔いなど残らないようにすべきだろう。明日の命もあやふやならば、今日を全力で生きることを誰も批判出来やしない。
その上で、自分の最期の瞬間には、親しい誰かといるべきだとも思う。花火を手に笑いあっているガキどもも、赤ら顔の呑兵衛も、ゲームに興ずる不健康児も、俺は孤独に冷たい海へ沈ませるつもりは毛頭なかったし、もっと言えば侘しく人生を終えさせる気もなかった。
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