アルコ&ピース平子「夏の概念と夢の国」
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12: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:41:15.01 ID:qUczw4Pjo
ブラックアウト。突然の沈黙。息をするのも忘れそうになり、眼球がぎょろんと忙しなくあちこちを見ようとした。

「……は!?」

車のエンジンが唐突に切れ、車内の明かりと言う明かりが途絶える。あの唸り声も突然無くなって、エアコンも動かないのかなんの音もしないし、計器類を照らした光も無くなった。
見えるのは車外の薄ぼんやりとしたライトだけ。外に何かあるのだろうか、こんな場所なのに遠くの方に建物でもあるのだろうな。どこかもわからない場所にある建物ってヤバくない?えっ、どこなの?
混乱してその場で暴れそうになったが、今の自分を俯瞰視して冷静さを取り戻そうとした。今俺は、暗くなった室内に残された男だ。慌てる気持ちもわかるが、そういう時に慌ててもろくなことにはならない。
まずは明かりを……そう思いポケットに手を突っ込んでスマホを取り出した。時間はよるかなり深いが、まだ日付は変わっていない辺りか。

それにしても。

「圏外?……なんだそれ」

そんなところに来てしまったのか?目の前は文字通り真っ暗、スマホをポケットに戻しながら愕然とする。いや、いや。道は間違えていないはずなのに、わけがわからない。何が起きているのかさっぱりわからない。
どうすべきか。まずは助けを……だからスマホが使えねえっつってんじゃん。したらどうすりゃいいって?車から降りて人を探してみるか?……それこそ行くあてがなさすぎる、博打すぎんだろ。
にわかに焦り始める自分をなんとか御す。じんわりと浮かび上がる脂汗が額を湿らせて、夏の暑さは密閉されているはずの車内に入り込んで広がろうとしていた。
ハンドルを握って、鍵を回す。しかしやっぱり車は動かなくて、梃子でも動かないぞ、という強い意思を感じる。バッテリーがイカれたんにしても、直そうとするなら一回降りなきゃなんないのはひどく恐ろしく思える。
どうする、どうすべきだ。

悩んだ結果、俺は一度車を降りることにした。

がちゃり、とゆっくり扉を開いて、足を地面に着ける。さく、と何かが擦れる音がして下を見れば、夏には相応しくない枯れ葉が積もっていた。まるでここだけは時間軸がずれてしまったような、壊れてしまったような感じがする。ここはなんなのだろう。さく、さく、両足を下ろし、そこに立ち尽くし、扉を閉める。

「時間……夜、か。つうか暗すぎて……」

世界は本当に真っ黒い。ぼんやり眼前に見えるのは希望のように差し込む光。

不思議だ。
なぜだろうか。
その時、車の修理よりも先に、光がある方へと歩くべきだと俺は思ってしまった。ああ、どうして、どうして?
よろよろと、ゆらゆらと。
光に向かう、死にかけの蛾のように。
不規則な揺らめきへと俺は近付いた。
途端に、光が前方からぱぁっと漏れ出す。ああ、なんだか暖かくて、ちょっと胸の奥がきゅうと掴まれるような、そんな懐かしさと切なさが───


目を開けると、そこは夢の国だった。





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