アルコ&ピース平子「夏の概念と夢の国」
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17: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:56:48.94 ID:qUczw4Pjo



気付けば俺は、酒井を助手席に乗せて車を走らせていた。なぜだか分からないが、そうしなければ行けないような気がしてしまったからだ。
失われたとしまえんと俺の記憶、そしてそれを取りに行かなければいけないと義務感が生まれだしているようだった。気持ち悪いが、胸中動き出した衝動性を止める力もない。
本当ならそんなことする必要なんてなくて、本当ならこいつを警察に突き出せば終わるかもしれなくて、でもなぜかできなかった。

「どこ行くの」

「ああ、俺が目ぇ覚ましたとこだよ」

「は?」

そう、そうだ。妙だなとは思っていたんだ。

過去のことを思い出そうとすると、強烈な目眩と強い頭痛に悩まされるようになった。いつからか、って言うのはあまりにも唐突だったので記録をつけてある。

それが9月1日だった。

去年、8月31日から9月1日に日付が変わって。
目を覚ますと、俺はそこにいた。
最初どこかもわからずぼんやりとしており、自分がなぜここにいるのかをゆったり考えていたのだったが、それ以上に『自分が何者なのか』を思い出せずに慌ててしまった。なにか、ヒントはないのかと探ったが、車からも財布からも、スマホの中からも、俺の俺たる情報のほぼ一切が抹消されており、途方に暮れた。
朦朧とする意識の中、不意にかかったエンジン音で脳裏にパンと浮かんできた謎の地図。不審だったにもかかわらず、それを信用してしまった。どう考えたって危険な状態なのに、なぜか安全運転を完遂して家で寝たんだった。
そして翌日、ああそうだ、免許証を落としたなと思って慌てて財布を開いたら、ちゃんと免許証は入っていた。『後藤 龍司』。俺だ、いいや、これは俺に違いない───間違っても平子 祐希ではなかった、それすらもなぜかなんて今聞かれても謎でしかないので答えられない。

「あれは……山だ。名前も誰も知らねぇような、小さな山だな」

「山?そんなとこ行ってたんすか」

「分かんねえよ。俺だってどうやって行ったか覚えてねぇし」

鮮やかなイエローは、車道から舗装の甘い山道へと進んでいく。会社から30分ほどで到着するような、そんなに離れた場所ではない、大して大きくもない山だ。
9月1日のあまり暑くないあの日、俺は真っ暗闇の車内で覚醒した。その場所がどこだかくらいは流石に調べた。
理由を探っても何もなかった。俺は何のためにそこに行き、どうしてそこで目覚めたのだか、考えてもいなかった。答えがここにあるのならば、見に行く必要がある。

山に入って数分。
ずっと車で走っていけるような、ゆるい道が続いている。木々は多くあるものの、そのどれもが季節とは外れて全て葉が枯れており、なのにどこからかひらひらと枯れ葉が舞っては落ちている。
時空がずれてるのか?という変なワードが脳裏を過ぎったが、言わなかった。処理できる自信がなかったからだ。
しかしここも小さい山とはいえ、それなりの本数の木が全て枯れてずらっと並んでいる様は威圧感のある画だ。この空間に全く生命がないようにすら思えた。

そうして走っていくうちに、ゴールが見えてくる。

「ここ……すか?」


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