アルコ&ピース平子「夏の概念と夢の国」
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2: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:19:19.01 ID:qUczw4Pjo
まあいいや、とりあえず仕事するだけだ。車を走らせて、今日も仕事に急ぐだけ。とはいえ、まだ始業の時間には全然余裕があるので、安全運転で向かうことができる。桜は徐々に散っていて、きっと9月まではもたないなと思った。
しばらく直進してから緩やかなカーブを曲がって、見えてきたビルの駐車場へと進んでいく。出入りを管理する警備員が、小さいプレハブみたいな小屋から出てきてこちらに会釈する。それに応じて頭を下げてから窓を開けた。

「おはようございます」

慣例となった挨拶をした。

「ああ、どうもお疲れ様。今日も涼しいですねえ」

警備員はそんなことを言って空を仰ぐ。うっすら雲が泳いでいる青は遠くまで澄んでいて、僅かに見える月が綺麗に光っている。風もそこまで強すぎやしないし、今日もいい日になりそうだった。
屋外から屋内へ、ビルの地下にある駐車場へと車を走らせていく。特段空気がひんやりとしていて、むしろ冬かと思ってしまうくらいの温度感が肌を刺すようだ。
さてさっさと駐車して、と───


遠くの誰かと、目が合う。

誰かが、こちらに向かってくる。



それはどこかで見覚えがあるようなないような、俺とは面識がないはずなのに、なぜだか妙に懐かしい感じのする、褐色の肌の男だった。
足取りははじめ重くゆったりしており、しかし近付いてこちらを見た途端……何かを確信したように、弾かれたかのように、突如急いで走り出す。しかもそいつは、真っ直ぐに、迷いも躊躇いもなく、真っ直ぐに……俺の方へとやってくるじゃないか。
なんだ、なんだよ?一体何なんだ?少し恐ろしくなってしまって、俺も釣られて走り出す。

「……っ、待っ、ちょっと待って!なんで走んのよ!」

背後からそんな叫び声が聞こえたが、面識のない人に追いかけられるいわれもないわけだし、お構いなしに走っていくことにした。恐ろしくて仕方がない。
……最近はどこで何が起きてもおかしくないからなあ。どこかで恨みでも買ってしまったのだろうか。

「マジで待って、話聞いt」

ガシャン。

絞り出すような叫び声は、エレベーターの鋼鉄のドアに阻まれて消えた。
いや、俺は彼のことは、知らない。きっと何かの間違いだ、誰か別な人と見間違えているのだ。
……それにしても彼とは、一体どこで会っただろうか。何故か顔を見た途端に、少しだけ懐かしい気持ちになって、つい泣きそうになってしまった。
どこでだろうかと思い出そうとすると、これまた妙なことに脳裏がにわかに痛み出す。ずきずきと、こめかみにまで痛みが到達して、思わず顔をしかめた。
きっと考えないほうがいい事なんだろう。
軽く首を振って、その痛みを飛ばした。
そうだ、そうだよな。俺があんな人間を、知っているわけがない。
エレベーターはやがて、目的の階に到達した。ゆっくりと扉が開き、一歩かごの外へ足を踏み出す。天井の照明がやたらに眩しくて目が眩んだ。

その中で、先程の彼を隣に、俺が舞台に立っている幻覚が見えた。

なんだ、これは?
いや、彼とは会ったことはないはずだ。ましてや、舞台に立つだと?俺が?そんなわけがない。客席を前に、自分の前に置かれているのはスタンドマイク、それに向かって語っているような、そんな幻想だ。
夢にしてはあまりにもリアルだけれど、心当たりがない。
首をかしいで、今日の業務へと向かった。


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