アルコ&ピース平子「夏の概念と夢の国」
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3: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/26(水) 23:21:13.01 ID:qUczw4Pjo
それから……オフィスに到着して1時間ほど、デスクワークをしただろうか。

「主任」

部下に呼ばれ、俺は顔を上げる。
そこにいたのは、最近入ったばかりの女子だ。どうも俺に気があるようで、ことあるごとに声をかけてきてくれる。例えば、先日などは『これから時間ありますか?一緒に食事はどうですか』なんて言ってきた。
可愛らしいし、気立ても良く、好みのタイプであることは間違いない。そろそろこちらからもアプローチしていい頃だろうかと思っていた。ああ、それはどうでもいいのかもしれないけれど。
まあ、そういうわけで、そんな俺に気があるであろう彼女からの声掛けなので、もしかしたらそういう話なのか、あるいは?などと甘い幻想を見て思わず笑顔を浮かべてしまっていたのだが、相反して彼女は真剣な顔をする。

「主任にお会いしたいと、お客様がお見えです」

「客?今日は誰からも連絡がなかったと思ったけど」

「いえ、それが……」

言葉が詰まる。どうしたの、とそちらを見て、そうすると彼女は少し申し訳なさそうに眉をたらした。

「あの、主任とどうしてもお話をしたい、という方がいらっしゃってまして」

「……ほう?」

それは興味深い報告だった。どうしても、か。かなり切実に思える。しかもなぜ俺なのだろうか?疑問が膨らむ中、彼女にさらに話を促した。

「それが、ですね。ものすごく熱心な方だったんです」

「俺と、話をしたいと」

「はい。何度かお断りしたのですが……」

「………」

「会議室にお通しして良いでしょうか?」

仕事ができないわけではない彼女の断りを拒むとは、なかなかにできるやつなのかもしれない。それともただ単に厄介なだけか、どちらにしてもかなり興味深いことは間違いない。
なにより、それだけ粘る人物なのだ、きっと今日断ったところで明日また来るだろう。それなら仕方がない、ここできっぱりキツめに言葉を突きつけてやるのも優しさだ。一度だけ話を聞いてやるか。
その人物を会議室に通すように指示を出し、今ある仕事を切りのいいところまで終わらせる。大した作業じゃない、海外支部への指示書の見直しをしていただけだ。
5分ほど時間を取り、そうしてある程度のところで見切りをつけて、やっと客人を迎えに行くことにしたのだった。

がちゃ。

ドアノブをひねる音がした瞬間に、中で人が立ち上がるのがわかった。ぱたぱた、と足音がしたが、革靴でないことは確かだ。これは……スニーカー、か?だとしたら見当違いかもしれない。
ゆっくり扉を開く。

「……お前」

「やっと、会えました」

いや、見間違えたはずもない。今朝の褐色の男だった。前髪が目を隠しているように見え、表情はいまいち読み取りにくい。安堵したようなうっすら笑みを浮かべているように思った。


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