アルコ&ピース平子「夏の概念と夢の国」
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22: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/27(木) 00:09:40.59 ID:b25Vyfuyo



2020年の8月は本当に暑い日がずっと続いていた。なんだってもう、こんなに暑いんだろうかと嫌になる。
気づけばどこだが分からない場所で倒れていた。なんだよもう、俺何してたってのよ。ゆっくり起き上がると砂が体についていて、ああ、汚えなあと思いながらほろってあちこち見ると、外が真っ暗で、しかもそこが公園だと言うことがわかった。
調べればそこは向山公園───練馬の高級住宅街の中にある、尾崎豊の曲でも有名な公園だった。しかしなんでまた公園に、俺はなんか……なんだ、よくわかんないとこに着いちゃって、そんでなんかよくわかんないけどびかびか光ってるとこに行ったら……なんか夢見てたような……。
なんてぼんやり考えていると、左の頬がじんわりと痛むのがわかった。しかも口の中もちょっと切れてるじゃんか、もー。倒れた時にぶつけた?痛みに耐えつつ左腕に填めた時計で時間を見ると、既にてっぺんまで針は到着していた。つまり、もう9月1日になっていた。
2020年の9月1日。
としまえんは94年の営業にピリオドを打った。今日からは、としまえんのない日々を過ごしていかなければならない。辛いけれど、まだ納得も実感もないけれど、それでも俺は進まないといけないんだろう。
さよならなんて、お前には言わないぜ。俺は、またな、とそう言うよ。あの黄金郷に再び辿り着くことができたのならば、きっと泣いて喜ぶんだろうなってすぐわかる。
ああ。そうだ。俺の夏は終わってしまったけれど、まだ終わっていないことはたくさんあるよな。

「っつうう……あ、あー?」

「あ?」

うめき声がしたので、そこで初めて自分が一人ではないことを知る。視線を下ろせば、なんで?酒井が倒れてるんだけど。え、なにそれこわい。俺らコンビでここで伸びてたってのかい。そうなると一気に不安になって来て、所持品を確認してしまった。財布よし、ケータイよし、鍵も……よし、何も盗まれてな……いや、待て。再び財布の中身を見ると、きっちり4300円減っていた。

「んーと……?」

だめだ、何も覚えていない。変なとこに着いたことは覚えてるが、それ以外がてんで思い出せない。

「えっと、おかえりなさい」

「……何が?」

「んだよ、それも覚えてねぇんかーい」

本当に、何が?
けれどまぁ、いいか。なぜだか胸がスッキリしている。頬が特に痛いのと、全身が水泳をやり疲れた時のような虚脱感に見舞われている以外は問題なさそうだ。

「とりあえず、どうする?」

「帰ります」

「乗ってく?」

「当たり前だろ」

「え、何でそんな偉そうなの」

夏の概念は消え失せて、そうして今年の夏は終わっていく。俺達の思いが残っている限り来年もまた、きっとここに夏は続いていくんだろうなと思いながら。
車を走らせ始めたところで、なんとなく酒井が泣きそうな目をしてこちらを見たけれど、理由は最後までわからなかった。ついでに2020年と言うワードに大仰に驚いていたけれど、その理由も教えてくれなかった。
……ああ、そっか。終わったんだな。
既に閉園して真っ暗になったとしまえんを背に俺は日常に帰っていく。またな、と一言告げてからアクセルをぐんと踏み込み、その幻影を振り払った。鮮やかなベガスイエローは、この日ばかりは少しだけ寒色に見える気がした。

もっかい流れるプールで泳ぎたかったな、って言ったら助手席の酒井に肩の辺りをグーパンされた。


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