アルコ&ピース平子「夏の概念と夢の国」
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21: ◆z.6vDABEMI[saga]
2020/08/27(木) 00:09:02.94 ID:b25Vyfuyo
「もういいか?」

俺の呆れ顔を見て、男達は取っ組み合いを中断する。これからどうすればよいのかは知っている。

「酒井、最後に聞かせてくれよ」

「なんすか」

息を荒くした酒井に声をかける。
ひとつだけ、不可解だったことがあった。
───酒井はなぜ俺を見つけられたのだろうか。誰に教えてもらったのだろうか。しかしそれを問うても、歯切れは悪い。

「分かんないんすよ、差出人は。いきなりメール来て、そこにあれが書いてあったんすよ」

「書いてあった?」

「としまえんだの、夏の概念だの、アンタがどこにいるかだの!誰が送ってきたんだか……俺が聞きたいんすけど」

「そう……なのか……」

「俺もマジで頭抱えましたね。いやー、サイコメール復活か?っつって。ネタメール間違えて俺に直送してね?って作家に聞きましたもん」

その気持ちは分かる気がする。誰だってそう思うだろうし、俺も同じ立場ならめちゃくちゃ心底疑うだろう。
だが不思議な話には不思議なことつきものなので、もう答えを探す元気もない。俺も狐につままれた、いや、つつまれたのか?何にしても謎は残ったが、それでも終わる気配がして胸をなでおろした。

だって、これからやるべきことはもう明白だ。

としまえんが夏の概念で、それが平子を指すのなら、解決策は一つしかないだろう。
……つまるところは、この幻想のとしまえんから、平子を引き剥がす。関連を断ち切って、連れ去って、現実へと戻す。
そうすればこの歪なイコールは崩れ去り、夏はきっと帰ってくるし、平子は普通に現実へ戻っていくし、俺もやがて薄れ消えていくだろう。本来あるべきではなかった人格の俺は、このとしまえんと同じようなうっすらぼんやりした存在に違いない。もとの所有者たる平子に器を返すのだから、おかしなことはない。
帰れるのか?いや、帰るしかない。あの出入口のゲートをくぐって、夢の国から帰るしかないさ。

とにかく、言えるのはひとつだけだから。つかつか歩み寄って、俺は言う。

「帰るぞ。」

手を伸ばす。こちらから。

「……夏は、もう終わりかぁ」

名残惜しそうな声とともに、手が伸びる。

「そう言うな、夏はまた来るさ」

「来るかなぁ」

「ああ。お前が忘れなければ、夏は何度でも」

風に乗った夏の匂いが、遠くから香ってきた。
始まったものはいずれ終わる。幻想にもいずれ壊れてしまう時が来る。それが瞬きするほどの速さか、それとも1年かはその人によるのだろう。

子ども達の笑い声と、優雅な音楽と、カルーセルエルドラドの輝きに平子は目をつぶり、言葉につまり、泣きそうになりながら大きく息を吸う。そうして、たっぷり時間を取ってからようやっと口を開いた。








「もっかいだけ、流れるプールで泳いできていい?」

俺と酒井で殴っておいた。





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