27: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:07:39.84 ID:Od9IjqsH0
  
 「まあ、大丈夫とはとても言えないですけど……でも、Pさんが残してくれた仕事がありますから」 
  
  私がそう答えると、瑞樹さんは「待って」と言い、私と目を合わせる。 
  
28: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:08:23.61 ID:Od9IjqsH0
  
  残された私はまず、Pさんのデスクに向かった。 
  彼がいないのは事実。でも彼のデスクで当日のスケジュールを確認することが、私のルーティーン。 
  だからいつものように、そう、いつものように。 
  デスクの上の閉じられたノートパソコンを、私は撫でた。 
29: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:09:02.79 ID:Od9IjqsH0
  
 「私にパスワードを教えて、いいんですか?」 
 「もちろんです。見られて困るものは全然ありませんし、一緒にスケジュール確認するなら、このほうがいいでしょう?」 
 「私、Pさんに内緒で、エッチなホームページの履歴を探しちゃうかもしれませんよ?」 
 「いやいや楓さん。これ、ちゃんとウェブフィルターがかかってますから、最初から見られませんよ」 
30: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:09:54.19 ID:Od9IjqsH0
  
 「楓さん……昨日は本当に、ありがとうございました」 
 「いえ、ただ一緒に帰っただけですから。少し、落ち着きましたか?」 
 「ええ……まあ」 
  
31: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:10:33.88 ID:Od9IjqsH0
  
 「え? ちひろさん、勝手にPさんの手帳出して、いいんですか?」 
 「はい。Pさんには以前から『ここに手書きのスケジュールとか入れておきますから、いつでも見てください』って言われてましたから。 
 ほんと、Pさんはオープンな人ですよね」 
  
32: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:11:22.25 ID:Od9IjqsH0
  
  慌ただしい日々は続く。それでも。 
  私はどうにか、告別式で焼香できる時間をひねり出すことに成功した。 
  当日は収録の仕事が入っていたけれど、中抜けをして斎場に向かうことができるよう、事務所のスタッフが手配してくれていた。 
  みんなギリギリの心理状態であろうに、本当にいくら感謝しても足りないくらい。 
33: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:12:28.09 ID:Od9IjqsH0
  
  そして到着した告別式、僧侶の読経が響く。中に入ると、驚くほど人がいなかった。 
  小さな祭壇に、社長さんやちひろさんなど事務所スタッフ数名、それからおそらく、彼のお姉さん。 
  両手で十分数えられる人数。私は茫然とした。 
  お姉さんと思しき人は、私の顔を見てわずかに会釈した。 
34: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:13:13.56 ID:Od9IjqsH0
  
  収録へ戻る車の中。私は、臨時でマネジメントをしてくれているスタッフに話しかけた。 
  
 「本当に」 
 「……なんです? 楓さん」 
35: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:14:18.80 ID:Od9IjqsH0
  
  手帳を、開く。 
  Pさんが残してくれた、私のスケジュール。それは半年先まで埋まっていた。 
  もちろん、これから詳細を調整する必要があるものばかりだけれど、私たちアイドルのスケジュールをこれだけ埋めておけるというのは、やはりPさんの力量が並外れていることの証左と思う。 
  カレンダーの後ろ、メモのところにはびっしりといろいろなアイディアや備忘録、彼の考え方や私のことなどで埋め尽くされていた。 
36: ◆eBIiXi2191ZO[sage saga]
2020/09/14(月) 21:15:26.03 ID:Od9IjqsH0
  
  社長さんから、Pさんの後任の打診を受ける。Pさんの先輩で、プロデューサーとしての実力も確かな人だった。 
  
 「高垣さんには酷な話だと思っています。だが我々も万全の体制で、引き続き頑張っていきたいと考えています」 
 「……」 
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