4:名無しNIPPER[saga]
2020/09/20(日) 13:10:02.82 ID:DMraZkfV0
 「こちらをご覧ください」 
  
  女神モイラが右手を振りかざすと何もない中空に映像が浮かび上がった。それはまるで近未来SF映画のようでもあり、そしてその有り得なさが逆説、尚更に社へと状況の非現実さを訴えかけるのだった。 
  
 「俺、ですね。これ、マジで死んでるんですか?」 
  
  満員電車に揺られ、逃げ帰るようになんとか辿り着いた自室の椅子とテーブルに突っ伏したまま微動だにしない見覚えのある男の姿がそこには映し出されている。背後からの画角なので表情までは察することが出来ないが、しかし力の抜け落ちた両腕がテーブルの裾から投げ出されている様からは生気はどこにも感じ取れなかった。 
  
  死んでいる、と言われれば納得しかねないほどに。 
  
 「死んでます、確実に。ちなみにこれは静止画像なのですが、この一秒後には体ごと滑り落ちて床に倒れ込んでしまいます」 
  
 「……うわっ」 
  
  とっさに言葉が出ないとはまさに今の青年そのものである――のだが、職業病であろう。あいにく社築の口の蓋は留め金が壊れ気味である。 
  
 「生きている間に自分の死体見るとか、無いわー」 
  
 「生きている間? いえ、死んでいるんですよ?」 
  
 「あ、そうでしたそうでした」 
  
  どこまでもあっけらかんとした空気を醸し出す社に対し、モイラは一つ深い溜息を吐いた。しかし、青年を穏やかたらしめているのは何よりも彼女自身の存在であると、その事実には女神は気付き至らない。 
  
 「えーと、これはつまり現状確認ですよね、モイラ様? 俺……社築は死んでしまって情けないと。ここまではまあ、痛いほど理解しました。が、それでも俺に何か有ると。だからあなたが来てくれたと。多分、そういうことだと俺は勝手に思っているんですが」 
  
  女神はゆっくりと頷いた。角度を変える細く白い頤は、さざ波のように眩しく揺れる髪は見るもの全てを恋に落としかねない神による造形物である。が、そこは社築。生女神に対して抱く感想が「クオリティ高過ぎ。原型師やべェな」ではいささか不敬が過ぎるであろう。 
  
 「話が早くて助かります」 
  
 「つか、これぶっちゃけ異世界転生の流れですよね?」 
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