七尾百合子の夢十夜-SS速報VIP

七尾百合子の夢十夜

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15: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:26:14.69 ID:v56twnXw0
　
「ん、大丈夫……です」
　
　そうは言っても、武器は取り上げられているし魔力も封じられている。ただのか弱い二人の人間となり下がった私たちは、たった数センチの鉄の鎖ですら千切ることは出来ない。少女の身体は私よりも更に細い。平時は野原を風のように翔ける少女だが、それは能力や技術によるもので、本人は小動物のように可愛らしい。こうして薄暗い部屋の中では更に小さく見える。
　

16: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:26:48.14 ID:v56twnXw0
　
　液体となった少女は服から抜け出してこちらに近づいてくる。大丈夫だよ、と優しい声が牢の壁に反響する。未だ固体のままの私の足先に、少女の先端がピタリと触れた。柔らかくて温かい。触れている箇所は指先だけなのに、全身を包み込まれるような感触だった。じわりじわりと、私の表面を少女が這い上っていく。包み込まれている部分の力が抜けて、私と少女が混ざり合っていく。
　
　腰まで少女に飲み込まれるころには、また一緒に冒険しようね、と響く声も私のものなのか、少女のものなのか分からなくなっていた。

17: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:28:28.89 ID:v56twnXw0
　
　　　第六夜
　
　こんな夢を見た。
　

18: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:29:23.03 ID:v56twnXw0
　
　ありがとうございますと口を開こうとするも、口も動かない。そうか、顔はまだ割ってもらっていない。眼で訴えようとするも、眼球すら動かない。どうしたものかと悩んでいると、目の前の少女は動かない私の視線に、自身の顔の位置を持ってきてくれた。じっと瞳の底を覗き込まれる。まるで裸体を晒したかのようにむず痒い恥ずかしさを感じた。

「それくらいなら自分で動けるだろ」

19: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:30:11.42 ID:v56twnXw0
　
「あっ、しまった」

　ふいに私の右腕が掴まれる。掴まれた感触は無い。私の腕は再び硬くなっていた。デコピンで弾かれるも、爪がカンカンと甲高い音を鳴らしながら跳ね返った。

20: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:31:09.53 ID:v56twnXw0
　
　　　第七夜

　こんな夢を見た。

21: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:32:08.75 ID:v56twnXw0
　
　前に出ることが出来ずにいると、私以外の全員がズルルッと後ろに下がって気付けば私が中央に立っていた。音楽は途切れない。視線も途切れない。必死になって手足を振り回そうとする。折角覚えたステップが踏めない。手振りが思い出せない。それでも手足を振う。動かしているだけだ。徐々に眼前で揺れていた海原が凪いでいく。
　
　動いているのは私だけ。手を振ると水流が周囲に広がるが、乱れないまま壁に跳ね返って私の下へ。客席のサイリウムがポツリ、ポツリと消えていき、どんどん水深が深くなっていく。沈めば沈むほど音は遠くなっていくし、水温は下がっていく。こんなに必死に身体を動かしているはずなのに、ブルリとした底冷えが襲いかかってきた。

22: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:33:03.16 ID:v56twnXw0
　　
　いよいよ足が地面から離れなくなった。その瞬間に、しまった、と思った。気付いた時には足がズブズブとステージに沈みこんで抜けなくなってしまっている。思いっきり力を込めてもびくともせず、動けば動くほど深みに嵌っていく。

　前からも後ろからも白い目が向けられる。腰までステージに沈んだ時に手をついたら、手も柔らかくて重たいステージにめり込んで外れない。音楽はもう聞こえない。

23: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:34:07.82 ID:v56twnXw0
　　
　　　第八夜

　こんな夢を見た。

24: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:34:34.06 ID:v56twnXw0

「ユリコの髪はウェットで綺麗ですね」

　少女が髪を持ち上げ、指の間からさらりと流してゆく。滑らかでありながら軽い感触が少しこそばゆい。さら、さら、シャキ、シャキ。鼻歌でも歌っているかのような、軽やかなリズムだ。自然と瞼が下がり、口角が上がる。

25: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:35:13.65 ID:v56twnXw0
　
「終わりましたよ。とってもコケティッシュになりました」

　鏡に映る私はいつもの髪型で、いつもの顔をしていた。むしろ、いつもより気の抜けた顔をしているように見えた。

26: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:36:03.14 ID:v56twnXw0
　
　　　第九夜

　こんな夢を見た。

27: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:36:45.91 ID:v56twnXw0
　　
　私も自分の本を読み進めようと視線を手元に落とすと「ねぇ」と声をかけられた。幼い子供特有の、遠慮も駆け引きも何もない、元気のよい掛け声だ。どうしたの、読めない漢字でもあった？と出来るだけ優しい声色で応える。

「アイドルって、楽しい？」

28: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:37:18.89 ID:v56twnXw0
　　　
「ねぇ、アイドルって楽しい？」

　顔を上げると、いつの間にか女の子の背筋はピンと伸びていて、指もスラリと伸びていた。自分で編んだであろう編みこみは締まりが悪く、ぼわっと広がってしまっている。思わずふふっと笑ってしまった。その笑いをそのままに「楽しいよ」と答えた。その様子を見て、女の子も笑った。

29: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:38:46.75 ID:v56twnXw0
　　
　　　第十夜
　
　こんな夢を見た。

30: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:39:43.52 ID:v56twnXw0
　　
「ぶひぃぃーー」

　妙に人間じみた鳴き声を上げながら、金色の子豚は等速直線運動で仰角四十五度を保った美しい軌跡を描いた。

31: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:40:33.77 ID:v56twnXw0
　
　接近してきた子豚たちを片っ端から鞭で叩いてゆく。聖母に叩かれた子豚は軽やかに吹き飛んでいくのに対して、私が叩いた子豚は呻き声を上げて転がって消えた。

　そのまま数千、数万もの子豚を鞭で絞り上げているうちに日が暮れてきてしまった。半ば単純作業と化していて若干の飽きを感じてきた。暗くなる前に家に帰らないといけないのになぁ。

32: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:41:21.26 ID:v56twnXw0
　
「百合子さん、百合子さん」

「んっ……？」

33: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:42:05.73 ID:v56twnXw0

「はい、スミマセン」

「私が出来ることと言えば」

34: ◆ivbWs9E0to[saga]
2020/10/31(土) 07:42:55.80 ID:v56twnXw0
おわりました。HTML依頼出してきます。
よく分からないお話ですみません。百合子がどんな夢を見るのかなと妄想するのが楽しかったです。

35: ◆NdBxVzEDf6[sage]
2020/10/31(土) 08:57:22.97 ID:MZHefsQt0
確かに夏目漱石の夢十夜を呼んだ時のような不思議な感じの話だな
乙です

七尾百合子(15) Vi/Pr

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