1: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:38:11.38 ID:/JAVxUrS0
それはどんよりとした雲が立ち込め、降りしきる雨が今にも雪になりそうな寒い冬の日。 
 定期テストが午前中に終わり、谷口と虚しく慰め合いながら迎えた放課後。 
 普段のように旧校舎の片隅へ特に目的もなくやって来た俺が、普段のように古泉の玉将に詰めろを掛けた瞬間だった。 
  
 ハルヒ「キョン、ちょっと電器屋行ってきて」 
  
 キョン「.........は?」 
  
 虚を突かれて将棋盤から顔を上げると、そこに広がっていたのは普段通りの部室。 
 長門は定位置のパイプ椅子に座って人間を撲殺できそうな分厚いハードカバーに目を落としているし、 
 お茶くみを終えたメイド服の天使は微笑みを浮かべながら何か編み物をしている。朝比奈さん、今日も変わらず素敵です。 
 悪びれもせず人に指図するこの女――――涼宮ハルヒについても、いつもと変わった様子はなかった。 
  
 ハルヒ「だから電器屋に行ってこいって言ってるのよ」 
  
 キョン「いや、唐突すぎて訳がわからないぞ。どこへ?どうして?」 
  
 ハルヒ「映画でCM打ってもらったところからこの前ストーブを貰ってきたでしょ?えーっと......」 
  
 キョン「大森電器のことか?」 
  
 ハルヒ「そうそう。そのストーブの調子が最近悪いのよねぇ」ガンガン 
  
 誰かさんがその熱源を独り占めするせいで俺たち廊下側はその恩恵に全くあずかれていないわけだが、それは一旦置いておこう。 
 曲がりなりにも貰い物であるストーブをハルヒが叩きつけるが、確かに動作していないようだ。 
  
 ハルヒ「だから、そのなんちゃら電器で直してもらってきなさい」 
  
 キョン「なんで俺が?!お前しか使ってないんだからお前が行けばいいだろ」 
  
 キョン「第一この雨の中そんなもん持ったら傘がさせねーだろうが」 
  
 ハルヒ「却下。雑用としての責務はちゃんと果たしなさいよ」 
  
 キョン「あそこじゃないとダメなのか?そんなに遠出しなくても、修理してくれる店くらい近場にもあるぜ」 
  
 ハルヒ「だーめ。スポンサーとは良好な関係を築いておかなくちゃね」 
  
 キョン「はぁ」
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2: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:40:12.17 ID:/JAVxUrS0
 ちらりと目線をやって他の面子に助けを求める。 
 長門、無反応。こちらを見ようともしていない。 
 朝比奈さん。あたふたする様子は目の保養にもってこいだが、少なくとも現状打開の策は持ち合わせていないようだ。 
 古泉......ダメだ。こいつのニヤケ面を見るだけでこれ以上の抵抗をする気も失せてしまった。 
  
3: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:41:41.60 ID:/JAVxUrS0
 古泉「ふむ。これで全部ですね」 
  
 キョン「電池はどうした?」 
  
 古泉「あなたが修理の依頼をしている間に買っておきましたよ」 
4: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:42:55.55 ID:/JAVxUrS0
 キョン「――――それで佐々木は言ったんだ」 
  
 佐々木『君は与えられた情報から理路整然と事実を推察することには長けている』 
  
 佐々木『ただ、何かを仮定することが苦手なのさ』 
5: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:43:40.41 ID:/JAVxUrS0
 キョン「.........?」 
  
 古泉「おや、少々解りづらかったですか.........ではこれならばどうですか」 
  
 古泉「ゲームをしませんか?あなたが何か一つ短い文章を作る。それを元に僕が状況を推理しましょう」 
6: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:44:30.89 ID:/JAVxUrS0
 ガラス戸のベルを鳴らしてそいつが姿を現した頃には、俺の頭には一つのフレーズが不自然なほど自然に降りてきていた。 
  
 古泉「どうですか。思いつきましたか?」 
  
 キョン「なんというか、ふと頭に浮かんできたんだけどな――――」 
7: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:46:03.98 ID:/JAVxUrS0
 高校に向けての長い復路を歩き出した頃には、幸運にも雨は既に止んでいた。 
 それにホッとする俺の様子を伺って、古泉がこう話を切り出す。 
  
 古泉「早速ですが、まず第一の推理。この語り手には時間的猶予がないのでしょう」 
  
8: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:47:45.77 ID:/JAVxUrS0
 古泉「そして第三の推理。語り手は歩いて何処かに行こうとしています」 
  
  
 推理3:『語り手は徒歩で移動する』 
  
9: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:48:57.07 ID:/JAVxUrS0
 古泉「まず、何故あなたがこの文章を思いついたのか考えてみましょう。あなたは先程こう言っていましたね」 
  
  
  キョン「なんというか、ふと頭に浮かんできたんだけどな――――」 
  
10: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:50:12.23 ID:/JAVxUrS0
 古泉「ここから更に踏み込めば、もっと環境を絞り込めますよ」 
  
  
 推理5:『この文章はSOS団における発言である』 
  
11: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:51:08.80 ID:/JAVxUrS0
 古泉「ここで僕は、一つの仮定を立てることにしました」 
  
  
 仮定:『<一時間三十分>は往復の所要時間』 
  
12: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:54:57.41 ID:/JAVxUrS0
 俺だって試験の点数はそりゃツバメの如き低空飛行かもしれんが、地頭は悪いほうじゃない――――と思いたい。 
 古泉の理論がどこへ着地しようとしているのかは、何となく察しがつき始めていた。 
  
 古泉「目的を達成するのに三十分ほど掛かるとして、ここから片道三十分で行ける距離には何があるでしょうか?」 
  
13: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:55:57.79 ID:/JAVxUrS0
 〜〜〜朝〜〜〜 
  
  
 我らが団長から直々のお呼び出し。 
 慌てて部室に赴くと、既に彼以外の団員は到着しているようでした。 
14: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:57:28.21 ID:/JAVxUrS0
 ハルヒ「ちょ、ちょっと!みくるちゃんどうしよう?!」ワタワタ 
  
 みくる「えぇ、えぇーっと......」アタフタ 
  
 古泉(長門さん、どうにかできませんか?)ヒソヒソ 
15: ◆copBIXhjP6[saga]
2020/12/06(日) 15:59:06.58 ID:/JAVxUrS0
 古泉「そして肝心の連れ出す要件ですが......皆さん、何かいい案はありませんか」 
  
 「「.........」」 
  
 長門「ストーブの修理に行かせればいい」 
16: ◆copBIXhjP6[sage]
2020/12/06(日) 16:00:42.83 ID:/JAVxUrS0
 元ネタはハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』でした。 
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