1:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:20:13.74 ID:YBAOIjLn0
同級生くんのお話です
ユッコはあんまり出ません
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:22:56.10 ID:YBAOIjLn0
あの日から俺の心にはどうしようもないくらい大きく開いてしまった何にも埋めることの出来ない空洞がポツンと立っていた。
大学生になって初めてできた栗色の大きな瞳の彼女も、社会人になって知り合った肩にかかった小さなポニーテールを揺らす彼女も、そのどれもが俺にとっての目的にはなり得なくて、脆弱で怠惰的な臆病な心の空洞を埋めるための一つの手段に過ぎなかった。
3:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:29:15.90 ID:YBAOIjLn0
1.七月
「んじゃまた明日な」
「おうじゃあな」
4:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:31:02.00 ID:YBAOIjLn0
まぁ、結局そこら辺の話はどうであれ本棟から少し離れた、普段使いしないような旧校舎になんて誰も寄り付かない事だけは確かだ。
かく言う俺もあんな事がなければ、その校舎に寄り付かない一人に違いなかった。
5:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:38:41.32 ID:YBAOIjLn0
新しいとも古いとも言い難いような雰囲気を纏った旧校舎の玄関を開けてから階段を昇って図書館へ向かう。
当たり前なのだけれども二階の廊下にも人は誰も居なくて、グラウンドの方から聞こえてくる野球部の掛け声だとか
どこか聞き覚えのある吹奏楽部の合奏だとかそう言う少し離れた場所から聞こえてくる喧噪が、古ぼけた窓ガラスから射す夕日に反射していた。
ふと窓を開けると風が吹いた。初夏を迎えた七月の涼しい風だった。いつまでもこの季節が続けばいいのにな。
6:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:40:01.40 ID:YBAOIjLn0
何と言うか、イマイチ言い表す表現が見つからないけれど最近の俺はどこかズレている。
今までならこう言う景色を見ても何とも感じなかったのに、今は誰かと、出来るなら彼女と、この景色を共有したいと考えている。
少なくとも良い意味でも悪い意味でも俺が俺らしくない。
7:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:42:28.61 ID:YBAOIjLn0
さて、そんな自分の気持ちに封をしてから、図書室の扉の前で少し背伸びして中を覗いてみる。
幸か不幸かは分からないけれども彼女はまだ来ていないみたいだ。
ポケットに手を伸ばして手元のスマホで時間を確認してみると時刻は十六時と三十分を少し過ぎた辺り。
普段なら彼女は図書室の真ん中の席で超能力とか良く分からないオカルトの本だとかを読み漁っている時間なのだけれども
8:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:44:14.13 ID:YBAOIjLn0
多分だけれども。彼女に言わせればこれがテレパシーってやつなのかもしれない。根拠はないけれどもそう思う。
「よし」
握りっぱなしだったスマホをポケットに仕舞ってから扉を開け
「あっ! イツキさん!」
9:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 17:45:23.02 ID:YBAOIjLn0
帰ったら続き投下します
10:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:45:15.38 ID:YBAOIjLn0
2.四月
この図書室に入り浸るようになった理由と言うか、彼女と話すきっかけになったのは
それは俺がこの図書室の鍵を持っているから。と言う案外単純な理由に落ち着くんじゃないかと思う。
11:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:47:14.98 ID:YBAOIjLn0
そもそも俺らの高校には図書司書と呼ばれる存在が居ない。
いや居ないと一口に言ってしまうのは違うし、正確には存在しているけれど今は名義だけの存在で
腰をいわして絶対安静中という深い理由があるのだけれど、
深堀して話をする内容でもないし、教育法だとか何かに引っかかってしまいそうなのでここでは割愛させて頂く
12:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:48:52.23 ID:YBAOIjLn0
いくら旧校舎の図書館で全く人が来ないからと言って、面倒なことをわざわざ請け負う人間も居なくて
その結果が前述したジャンケン大会と言うある種の責任の押し付け合いみたいな事態になってしまっている訳だ。
まぁ、それで激闘の末に栄えある図書委員長と言う大層な称号を請け負ってしまった俺は
一週間に一度、図書室の掃除を行うという役割と共に、代わりの価値にもならない図書室の鍵を手に入れることになった。
13:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:50:32.24 ID:YBAOIjLn0
ある日、俺がいつもみたいに「やりたくないなぁ」だとか「面倒だなぁ」とか
そう言う人間なら誰でも抱えたことがあるだろう、その怠惰的な気持ちを抑えながら図書館に向かう廊下を歩いていると
今はもう誰も使っていない古ぼけた教室、その中に彼女は椅子に座って片手でスプーンを握りしめてそこに居た。
こんな事を言ってしまうもなんだけれども初めは幽霊なのかもしれないのだと思えた。
14:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:51:08.45 ID:YBAOIjLn0
せいぜい迷い込んだ野良猫がたまに顔を見せるぐらいだ。
それに教室の窓越しから見える彼女の白い肌は窓越しに射す夕日に照らされて
まるでこの世の物だと思えないぐらいの儚さだとか、綺麗さだとか、切なさだとか、そう言った物を心のどこかに感じさせていた。
15:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:52:27.43 ID:YBAOIjLn0
一分にも、五分にも、あるいは十分にも感じられるような、そんなオレンジ色の世界の中で先にはっと気づいたのは俺の方だった。
一応程度にドアをノックしてから教室の扉に手を伸ばす。
思っていたたよりも少しだけ重かったドアはガラっと軋むような鈍い音を立てて開いた。
教室の真ん中に居る彼女は、突然来訪した俺の事なんか気づいてもいないみたいに瞳を閉じている。
16:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:53:27.32 ID:YBAOIjLn0
「何してんの?」
俺が彼女に初めて話しかけた時の、乾いた喉から出た言葉はそんな言葉だったと思う。
「むむ……ちょっと待ってください! もう少しで行けそうな気がするので!」
彼女はそう言って先の割れたスプーンを握りしめていた。
これが俺らのファーストコンタクトだった。
17:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:54:59.84 ID:YBAOIjLn0
「むむ……サイキック不調ですかね……夕日の力を借りてスプーン曲げに挑む作戦は悪くないと思えたんですが……あ、ところでどなた様でしょうか?」
「あ、えっと俺の名前はイツキ、樹木の樹って書いてイツキ」
「成程イツキさんですか! いいお名前ですね! 私の名前は堀裕子! サイキッカーです!」
「あぁ……なるほどサイキッカー……」
18:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:55:57.15 ID:YBAOIjLn0
「あっ! その顔は何言ってるんだこの美少女って顔してますね……?」
「あっ……うん」
少なからず図星だった。彼女が美少女であるかどうかはともかくとして、何言ってるんだコイツって顔をしていたのは多分出ていたんだと思う、顔に。
「ふふふ……では今からズバリとイツキさんが何故この教室のドアを開けて私に話しかけたのか、それを当てて見せましょう」
「それはイツキさんがこの『超能力同好会』に興味があったからですね! 私には分かります!」
19:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 22:56:51.53 ID:YBAOIjLn0
3.五月
それから俺は色々あって半ば無理やりの形だけれど『超能力同好会』に入部した。
自信満々に答えた彼女の鼻を折る気にもなれなかったし、それに俺はこの旧校舎に一人で居すぎたせいで
20:名無しNIPPER
2021/06/23(水) 23:02:49.34 ID:YBAOIjLn0
これは俺が彼女と知り合ってしばらく経ってから知ったことなのだけど、どうやら彼女はこの学校では割と有名人の立場に居る人間らしい。
それこそ堀裕子と聞けば、この学校の誰もが「一年の超能力少女だっけ」だとか「あぁユッコちゃんね」って思い浮かべるられるぐらいには。
まぁ確かに彼女は自称サイキッカーで成績もかなり目立つ方だし
自らを美少女と公言できる程度の顔立ちも持ち合わせてはいるからm言われてみれば確かに目立つ方ではあるのかもしれない。
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