13: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2021/09/27(月) 19:13:16.57 ID:FpkFq5Eu0
 「うん。私はそれを聞いてね、羨ましくって――でも手を伸ばせばわたしにも届きそうに思えた。 
  でも本当に手を伸ばしていいのかな? 志貴と一緒にいる時はこんな事考えないけど、一人になると昔のわたしが訴える。 
  アルクェイド・ブリュンスタッドは無駄なものを持ってはならない、余分は事をしてはならない。それは個体としての機能を落とす事に他ならない――って」 
  
 「おまえ……」 
  
  先輩と口喧嘩をして、眉をしかめるのを隠そうともしない姿。 
  俺と先輩にカレーの偏った知識を与えられ、戸惑いを隠せない姿。 
  初めて食べるカレーに心底楽しそうに笑う姿。 
  先輩のつれない反応にふてくされる姿。 
  
  今日一日を思い出すだけでも、天真爛漫を絵に描いたようなアルクェイドにしか出せない輝きの数々。 
   
  しかしこいつはまだ、それが許されるのかどうか――当たり前のコトを当たり前に感じる事を、自分自身に咎められている。 
  
  生まれ落ちてからずっと周りからそう教え込まれてきたんだ。 
  その価値観は一朝一夕で拭えるものではないだろう。 
  自分の在り方を変えようと思って簡単に変えられるものなら、生きるという事はもっと簡単で――空虚なものに成り果てる。 
  
  だから俺は、それに付き添いたい。付き合っていきたい。 
  こいつが俺といない時でも人生を楽しめるようになって――――――――――それからも、一緒に生きていたい。 
  
 「そんな風に色々考えていたら、あ、そういえばシエルはどうして学校に通っているのかなって」 
  
 「なるほど……そういうわけでしたか。 
  遠野君の次に私を選んでくれたのは、何というか面《おも》はゆいですね」 
  
  アルクェイドの告白を真剣な様子で聞いていた先輩は、困ったような、それでいて照れくさそうな笑みを浮かべる。 
  
 「まあシエルとの付き合いも結構長いしね。それでどうしてなの? 
  志貴はまだはっきりとした目的が無いから、自分にとって何が必要なのかわからない。だから例えその大半が無駄になるとしても、色んな事を学ばなければならない。そうして学び得た知識の大半が無駄になっても、そんな事もあったなって思い返して楽しむ事ができる。 
  けどシエル。あなたは自分に必要なものが何であるかわかっている。だってあなたは教会の人間で、代行者。ならば代行者としてのスキルを磨くべきでしょ?」 
  
 「もっともな意見ですね。というか実はですね、埋葬機関が出張るような大きな案件はそうそうありませんし、目的を果たしたにも関わらず真祖が活動を停止しないというこれまでにないケースなので、近くにわたしがいるのは正直助かるけど、なんで昼間は学校に通っているんだと本国からも突っ込まれています」 
  
 「えぇ? あなた教会の人間にまで突っ込まれてるの? もしかしてメレム?」 
  
 「ああ、本当に知り合いだったんですねあなたたち。彼も不愉快な感じで茶化してきますが、まだアレと比べればマシです。 
  何せ殺意を抱くほどではありませんから」 
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